2024年4月20日(土)

人事は企業を変えられる

2016年9月12日

 会社を立て直すとき、即戦力となる人材を採用することができず、今いる人材の教育や登用のみで取り組まなければならないときがある。

 銀座にあったフレンチレストラン「マキシム・ド・パリ」で社長を務めたとき、まさにこの課題に直面した。当時マキシムの経営は最悪で、治療法がすぐには見つからないどん底状態だった。ましてや、新たに優秀な人材を採用する資金力は残っていなかった。

Hemera

 社員たちは経営状況を感覚的に把握していたため、まずは数字で理解することを促した。会社が瀕死の状態であることを社員が正しく認識・共有することで、危機意識の醸成と仕事に対する意識改革を試みた。というのも、経営改善をしようにも、当時は経営層の指示に対して若手が現場の経験則から反発しており、両者の間で議論がかみ合っていなかった。

 そこで、「そんなに気に入らないなら自分たちが経営層の代わりになればいい」と若手に経営情報を伝えたことで、彼らの奮起が始まった。

 社内塾を開き、売り上げが発生してから、原材料の購入や廃棄などの費用がかかり、最終的に利益がどう生まれるのかを自ら考えられる素養を身につけさせた。経営状況を家計に例え、小学校3年生程度の算数でそれらを理解できるテキストも自作し、危機意識を高めていった。

 そのうえで若手に、気温と天候を踏まえ、どのように売り方や仕入れを改善するべきか、数字で仮説を立てさせ実践させた。仮説がうまくいった場合は、それを現場の声として集め、お客様の温かいお褒めの言葉や失敗から学んで得た教訓とともに横展開をし続けた。これを繰り返していくことで、数字へのこだわりが社員の中に浸透し、お互いのコミュニケーションの基礎となっていった。


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