2024年4月25日(木)

ネット炎上のかけらを拾いに

2016年7月26日

目立ちたいだけでデマツイートする孤独

 今回の逮捕について、ネット上での反応をおおむね「逮捕されて良かった」というものだ。だが中には、「このぐらいの冗談も許されないなんて」「こんなんで騙される人がいるの?」といった反応もあった。こういったツイートをしている人は、実際にどんなツイートでどのぐらい拡散され、どれだけの人が動揺して動物園に電話をかけたか、そういった報道を知らないのかもしれない。しかし知った上でこのように言っているのであれば、許されるジョークは、場所や時流によって変わることを知っておくべきだろう。そこを読み間違えるとあっという間に顰蹙を買うことになる。顰蹙を買うだけならまだしも、今回のように物理的に人に迷惑をかけることにもなる。

 フォロワー数の少ないツイッターユーザーの場合、普段のつぶやきを見ている人はごく少数だ。しかしひとたび拡散されてしまうと、予想もしないほど多くの他人から見られることになる。「内輪」だけで通じる冗談のつもりでツイートしたとしても、そのネタが通じない人でも当然目にすることになる。

 逮捕された男性会社員も、ここまで拡散し、信じる人がいるとは想像できなかったのではないか。もちろん、想像できなかったから同情する、という意味ではなく、その想像力の乏しさに呆れる。

 また、少し前に頻発した「殺害予告」の書き込みによる逮捕と似ているのは、人を騒がせることで「注目を集めたい」という心理だ。逮捕された会社員は、ツイートが数万件リツイートされ、「デマだ」「ツイートを消せ」と指摘された後もしばらくツイートを消さずに、ふざけたツイートを続けていた。また、当時のアカウントは削除したものの、たびたびアカウントを変えて逮捕直前までツイートを続けていた形跡もある。デマを拡散し、騙される人や気付いて糾弾する人から「構われる」ことが楽しく感じるほど、彼の人生は孤独だったのかもしれない。

 もちろん、孤独だったから免責しろという意味ではない。冒頭で述べた通り、逮捕は「いいニュース」だったと思っているし、類似犯はどんどん逮捕されてほしい。ただ、孤独からデマツイートを行うような投げやりな人間に対して、逮捕が完全な抑止力になるのかといったらそうではないのかもしれない。

 わずか5年前、東日本大震災時にもデマツイートは多かった。「○○県が個人からの救援物資を必要としている」といった物資に関する内容から、「サーバールームに閉じ込められた。助けてくれ」と助けを求めるウソ、「人気漫画家が高額寄付を行った」というデマツイートも非常に拡散した。

 現金を騙し取るような迷惑メッセージには警戒できても、「こんなデマを言っても発信者に何の得にもならない」と思えるような内容については、人は自然と無警戒になり、拡散に協力してしまうことがある。オオカミ少年の寓話を知っていてもなお、騙されてしまうのだ。世の中には、「退屈しのぎに」「注目されたい」というだけで世にもくだらないウソをついてしまう人がいることを、常々心にとめておきたい。

  
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