2024年4月19日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年1月22日

 2009年12月30日、政府は「新成長戦略(基本方針)」の基本方針を発表した。そこでは、公共事業・財政頼みの「第一の道」や行き過ぎた市場原理主義の「第二の道」ではなく、100兆円超の「新たな需要の創造」により雇用を生み、国民生活の向上に主眼を置く「第三の道」を進む、との姿勢が打ち出されている。その上で、「環境・エネルギー」、「健康(医療・介護)」、「アジア」、「観光・地域活性化」、「科学・技術」、「雇用・人材」の6つの戦略分野を中心に据えて、2020年度までの平均GDP成長率で名目3%、実質2%、そして失業率の3%台への低下を目指すとしている。

需要創造に力点を置く「新成長戦略」

 「新成長戦略」の特徴は、何と言っても需要の拡大を重視していることだろう。内需に勢いがない日本経済は成長力に乏しい。このままでは、金融危機が終息して景気が回復しても、不況感はなかなか消えず、デフレが長期にわたって持続する懸念もある。日本経済を活性化させるには外需の一層の取り込みも不可欠だが、なにより内需拡大を図らねば需給はバランスせず、企業の設備や雇用の過剰感も解消しにくい。

 この観点からすれば、「新成長戦略」が掲げる「健康大国戦略」「雇用・人材戦略」など需要拡大にウエイトを置く成長戦略は合理的な方向と言える。たとえば、「健康大国戦略」での医療・介護サービスの基盤強化は、高齢者の将来不安軽減に寄与して貯蓄の一部が消費に回る余地を拡大する。

 また、「雇用・人材戦略」はもっと直接的である。そこでは、出生率の回復を目指す少子化対策は不可欠だが、成果をもたらすには20年以上かかるとして、若者・女性・高齢者・障がい者の就業率向上を目指す種々の雇用戦略を示している。

 女性の就業率向上のため「女性M字カーブ解消」を掲げ、出産を機に働く女性の7割近くが退職せざるをえない現状を変革する意向もそのひとつである。みずほ総研の計算でも、仮に日本の年齢階層別女性労働力率がフランス並みになったとすれば、労働力で300万人、所得で11兆円増加し、日本経済への経済効果は大きい。

 なにより、定年まで働き続ければ1.8億円程度とも見られる女性の生涯所得は、出産を機に収入の機会を断てば4000万円に、子育てが一段落した40歳からパートで働くとしても6000万円にしかならず、合計1億円以上の収入機会が失われるとの試算もできる。女性や高齢者の労働力率上昇や有効な少子化対策が実現すれば、労働人口増加や出生率回復などから内需を支える大きな原動力になることは間違いない。

具体策や予算措置がなければ絵に描いた餅

 もっとも、ここで今回の「新成長戦略」の大きな課題に突き当たる。それは、戦略分野を遂行するための個別策や予算措置が明示されていないことだ。「女性M字カーブ解消」にしても、ぜひ実現しなければならない方向ではあるが、具体的にどのようにして女性の就業率を引き上げ、M字カーブを解消していくのかが明確になっていない。


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