2024年4月25日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年1月20日

 インターネットの普及はあらゆる権力が個人からの挑戦にさらされることでもあった。それは西側でも同じく第三の権力と呼ばれたメディアも同じだった。以前は単なる読み手でしかなかった多くの個人が発信者となったのである。そうしたツールをもう一度人々から奪うとしたらいったいどれほどのエネルギーが必要だろうか。

 かつての西側的価値観の押しつけであれば「人からルールを押しつけられることには本能的に反発する」中国人の多くが共産党を支持したに違いない。だが、この問題では中国の民意はどう動くのか予想がつかない。少なくとも中国にとっては不穏の芽の一つと考えられるはずだ。

実は言論の自由を望んでいる中国共産党

 そして、さらに複雑なことは、抵抗勢力と目されている共産党自身が、実は言論の自由やメディアの成長を望んでいるという一方の事実があることだ。

 2007年秋にポスト胡錦濤世代として広東省党委員会書記に抜擢された汪洋は、就任して間もなく「広東の思想解放はまだ不十分だ」と発言して話題を呼んだ。何といっても広東は、中国のなかで最も西側的な土地だったからだ。

 汪洋は次世代の指導部入りが確実視される幹部だが、彼とて党の考え方を無視してこうした大胆な発言ができるはずはない。つまり党のさらに上層部の意向を受けた発言だと考えられるのだが、それを裏付けるように08年の秋、温家宝首相がCNNのインタビューに応じてより具体的に報道の役割についてこう言及したのだ。

 「政府は『人民の監督』を受けるべきで、政府は透明性を高めてゆく必要がある。そのために政府は特に新聞メディアからの監督を受けなければならない」

 世代交代の進む中国では、もはや共産党が政権を握る正当性にいつ疑問が投げかけられても不思議ではない。その不満が湧き上がることを避けるためにも人々が実感できる経済発展の実現が不可避だ。しかし経済が発展すれば格差も広がるという悩みを党は常に抱えている。こうしたジレンマのなか、共産党が渇望しているのは「人民に選ばれた党」とのステイタスなのだ。そして、そのためにも民主化は避けられないのである。

 つまりいまや中国政府も西側も同じ方向を向いていることになるのだが、問題はそのスピードと手法である。中国はあくまで自分たちのペースでゆっくりと慎重に民主化を進めようとするが、西側の要求は性急で、「遅れている」と指摘されるたびに中国は反発してきた。「中国には中国の事情がある」と。

 だが今回、この中国の流儀はインターネットのもつカルチャーと正面からぶつかることとなった。

進むも地獄、退くも地獄

 問題はいま爆発的にネットユーザーが増える中国で、人々がこのインターネットのカルチャーと親和性をもっていることだ。社会参加の機会が他の国より乏しい中国では、まさにネットが人々に力を与えているからだ。


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