2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2016年8月4日

投票率は上昇したのか

 前回選挙から今回の選挙では投票率は先述した通り13.59%ポイント上昇したが、投票率は、上で見た通り、様々な要因に影響される。特に、気象条件や有権者の気分など必ずしも合理的とは言えないイレギュラーな要因から強く影響を受けてしまうのも事実である。しかし、投票率に影響を与える様々な要因がこれまでに行われた選挙とあまり違いがないと想定した場合の投票率-一種の潜在的投票率-を統計学的に求めることが可能である。ここでは、今回の投票率は本当に上昇したのか、もしくはどの程度上昇したのかについて、統計学的な手法を用いることで潜在的投票率を推計することにより、(1)今回の実績値と潜在的投票率との比較、(2)前回の潜在的投票率と今回の実績値とを比較することで検証してみる。

 まず、投票率に与える種々の要因が今回の選挙とこれまでの選挙とでそれほど違いがなかったら実現されるであろう潜在的投票率を統計学の手法を使って推計すると55.20%となった。次に、昨年6月の改正公職選挙法の成立により、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、都知事選では今回初めて導入された18歳選挙権による投票率上昇分については、現時点では確たるデータが入手できないため、第24回参議院議員選挙とほぼ同様の2%であったと想定する。この場合、今回の都知事選で真に上昇した投票率は、実績値の59.73%から潜在的投票率の55.20%と18歳選挙権導入により上昇した投票率2%を控除した2.53%(=59.73-55.20-2)と試算される。以上の計算をもとに考えると、今回の都知事選における投票率の上昇分は2.5%程度と見かけほど投票率が上昇した訳ではないことが分かる。

 次は、前回の潜在的投票率と今回の実績値との比較である。繰り返しになるが、前回の都知事選においては投票日前日に東京都心では1994年以来20年ぶりの大雪となり、大きく投票率を落ち込ませる結果となった。もし仮にこうした特殊要因が存在しなかったとしたら実現していたであろう潜在的投票率を先と同様に統計学的な手法を用いて求めると55.53%となった。これは現実の投票率46.14%より9.39%ポイント高い数値である。この前回の潜在的投票率55.53%と今回の投票率59.73%から18歳選挙権導入による上昇分2%を控除した57.73%を比べると、2.2%ポイントの上昇に過ぎず、見かけ上の投票率の上昇幅13.59%ポイントより著しく低いことが確認できる。

 これは、2代続けてカネの問題で都知事が辞職するという緊急事態においても、自民党の分裂や野党共闘を除けば、知名度や国政優先で都民置き去りの候補者選び、キャッチーなフレーズの連呼のみで具体的な政策論争が深まらなかったこと、「消極的な選択肢」しか与えられなかったことなどにより、都民の新都知事への期待が高まらなかった点等を考慮すると妥当な評価と言えるだろう。


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