WEDGE REPORT

2016年8月6日

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吉村慎司 (よしむら・しんじ)

フリージャーナリスト・北海道国際交流・協力総合センター研究員

1971年鳥取市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。97年日本経済新聞社に入社し、流通・消費分野を中心に企業取材に従事する。10年にフリーに。11年、露ウラジオストク国立経済サービス大学に短期留学。帰国後は主に日本、ロシア・旧ソ連圏の中小個人ビジネスを取材し各種媒体に寄稿してる。12年春から公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)研究員も務める。

 日本とロシアを直に結ぶ唯一の旅客定期航路、稚内―サハリン航路の運航が今週復活した。同区間では1999年以来夏季のフェリー運航が毎年続いてきたが、昨秋、運営主体だった日本のフェリー会社が不採算を理由に撤退。今季の運航が絶望視されていたところにサハリン州政府から協力の申し出があり、新体制での再開に至った。ロシア側は船会社をあっせんするほか、運航経費の一部を負担するなど異例の協力ぶり。背景には、極東振興に取り組むウラジーミル・プーチン大統領の影響力が見て取れる。

サハリンからの乗客

稚内ーサハリン航路

 8月1日の昼過ぎ。青空の下、80人乗りの双胴船「ペンギン33」(270トン)が稚内沖に姿を現した。ロシア・サハリン州のコルサコフ港を出発してから約4時間半。穏やかな海面を順調に進み、13時前に無事稚内港に着岸した。新体制による稚内―サハリン航路の第一便である。船から降り立ったロシア人客が報道陣のカメラに笑顔で手を振る。岸壁で出迎えた数十人の地元関係者に、一様に安堵の表情が浮かんだ。

 運航するのは日本の会社ではなく、ロシアのサハリン海洋汽船(SASCO=サスコ)だ。サスコがシンガポールの船会社から船員ごとレンタルした船を使う。定員80人で貨物の扱いはなし。昨年まで乗客200人強、車両50台程度を運べるフェリーだったのに比べれば小規模だが、小型化することで運航コストを抑える狙いだ。

 「春の時点では、今年の運航はないと誰もが思っていた」と稚内の行政関係者が話す。航路はこれまでビジネスや観光だけでなく、若者の交流事業、旧樺太出身者の墓参など、少ないながらも多様な利用者を運んできた。季節航路を16年維持したハートランドフェリー(本社:札幌市)が昨秋に運航を終えるのと前後して、稚内市と地元経済界はハートランドからの船の買い取り、新たな運航会社の確保などを画策してきた。だが諸条件が折り合わず昨年末までに計画は断念。打開策がないまま今年4月に第三セクター「北海道サハリン航路」を発足し、当面2017年までに航路を再開することを目標に掲げていた。

 風向きが変わったのは5月下旬だった。サハリン州政府から稚内市に、資金を含めた協力の申し出が入った。航路は99年のスタート以来黒字化せず、市が補助金で支えてきたが、その間ロシア側からの資金支援は一度もなかったため、関係者に驚きが広がった。支援はオレグ・コジェミャコ州知事の判断だった。

 コジェミャコは州外から昨春やってきた、新しい知事である。ロシアの知事は形式上は地元住民による投票で選ばれるものの、実態は大統領による任命制だ。コジェミャコの場合は、前の州知事が昨年3月に汚職容疑で逮捕された際、クレムリンの命を受けて知事代行として州外から赴任した。選挙を経た正式な知事就任は昨年9月。サハリンの前には別の地方の知事を務めており、サハリンの慣習やしがらみにとらわれずに地域を発展させることを中央から期待されている。

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