前向きに読み解く経済の裏側

2016年8月5日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

政府が資金調達に困っていないなら
ヘリマネは不要なはず

 日本国債は人気があります。貸出が伸びないから、という消去法的理由なのですが、とにかく政府は日銀が国債を買わなくても、民間銀行に簡単に売ることができます。ならば、わざわざ日銀に買ってもらう必要はありません。ちなみに、政府が発行しているのが長期国債なので、日銀がこれを買うと長期金利が下がる等々、議論が複雑化します。そこで本稿では、単純化のため、政府が発行している国債が短期国債であるという仮定を置いて議論をすることにします。

 「日本政府は巨額の赤字で破産する可能性もあるのだから、日本国債を買いたいと思っている人はいないはずだ。銀行等は、日銀が高値で買ってくれると思うから買っているだけだ」と考える人もいるでしょうが、それは違います。もしも銀行が、「日本政府が破産する可能性を考えて国債を買いたくないと思っている」のだとしたら、国債を売った代金を日銀に準備預金(銀行が日銀に預けている預金のこと)する筈がありません。政府が破産する時には日銀も破産するからです。

 つまり、政府は自分で国債を出せばよいので、わざわざヘリマネで日銀から借金をする必要はないのです。

偽薬効果を狙えるなら狙うべき

 では、ヘリマネは不要なのでしょうか? 筆者は、必ずしも不要だとは考えていません。それは、偽薬効果が狙えるからです。金融市場の投資家たちの間では、ヘリマネは「大胆な金融緩和策」だということになっているようです。そうであれば、「大胆な金融緩和をすれば株高、ドル高になる」と考えている人々が買い注文を出すので、株やドルは値上がりするでしょう。

 上記のように、ヘリマネを行なっても実体経済には何の変化も起きないと思われますが、重要なのはそれではなく、人々が何を考えて、いかに行動するか、ということなのです。

 黒田日銀総裁の就任当初、大胆な金融緩和を打ち出しました。それにより、「世の中に資金が出回って株高、ドル高になるだろう」と信じた人々が株やドルを買ったので、株高、ドル高になりました。筆者はそうした人々のことを黒田信者と呼んでいます。実際には世の中に資金が出回らなかったので、黒田信者たちは間違えていたわけですが、重要なことは、彼等の買い注文で株高、ドル高になり、実際に景気が回復した、ということなのです。

 医者が小麦粉を患者に渡して「高い薬だ」と言うと治癒してしまうことがあり、医学の世界では「偽薬効果」と呼ばれています。黒田日銀総裁の大胆な金融緩和も、これと同様に、本来は効果がないはずの手段で効果を上げたのですから、偽薬効果であったと言えます。そして、今回のヘリマネにも、同様の偽薬効果が見込まれるのです。

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