WEDGE REPORT

2016年8月9日

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 リビアの地中海沿岸都市シルトを拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)に対する壊滅作戦が激しさを増している。リビア暫定政府の後押しを受けた民兵軍団がシルトに突入し、米軍が8月1日にISの拠点への空爆に踏み切ったが、ISも頑強に抵抗しており、攻防はヤマ場を迎えている。 

ISのスナイパーの射程圏内に進んでいくリビア軍兵士(The Washington Post/GettyImages)

地雷、わな爆弾、スナイパー

 シルトはリビア中央部の地中海沿岸に位置する石油地帯の中心都市だ。ISがここに拠点を築き始めたのは2015年春ごろ。当初は200人程度だったISの戦闘員は今年春には6000人から8000人にまで急増した。

 ISは本拠としているシリアやイラクでは、米主導の有志連合やロシアの空爆で戦闘員や占領地を相次いで失うなど劣勢に追い込まれている。このため、たとえ本拠が崩壊しても、ISの運動や思想が生き残れるようシルトに新たな拠点を築こうとしていると見られていた。

 戦闘員はリビア人に加え、半分は隣国のチュニジアやエジプト、そしてスーダンなどからの外国人だ。シルトを拠点としたのは、石油施設を占領し、油田の密売で活動資金を獲得しようとしたことと、地中海をはさんだ対岸のイタリアなど欧州へのアクセスがしやすいことが理由と見られている。

 米欧は北アフリカでのこうしたISの勢力拡大を懸念。ISが東西に分裂したイスラム主義政権と世俗政権による内戦の混乱状態に乗じていることから、まず内戦が終結するよう協議が進められ、昨年12月、国連主導でシラージュ暫定政権が発足した。

 シルトに進撃している民兵軍団はシルト西方のミスラタの部族出身の戦闘員が中心で、独裁者カダフィ大佐を打倒した勢力でもある。民兵軍団は6月初めからシルトへの進撃を開始、廃墟と化した市の約30%を奪回した。

 しかしISは市の道路という道路にバリケードを築き、至る所に仕掛けられた地雷やわな爆弾、スナイパーによる発砲と自爆攻撃が民兵軍団の行く手を阻んだ。これまでに民兵約400人が死亡、2000人が負傷するという激戦になっている。

 ISは特に住宅の掃討作戦を進める民兵を狙って冷蔵庫の中やパンの袋などに爆弾を仕掛けたり、赤ちゃんの声を拾うベビー・モニターを起爆装置にするなど狡猾な爆弾を無数に仕掛けた。民兵軍団側は道路などに埋設された地雷を除去するため、羊1000頭を放つ計画とも伝えられているが、まだ実施されていない。

 ISのこうした抵抗に苦戦した民兵軍団のため、暫定政府が米国に空爆を要請、オバマ大統領がこれを承認し、米軍はシルトのIS潜伏拠点に猛爆を加えた。しかしISは空爆を避けるために戦闘員を小規模に分散、夜間に移動して攻撃するなどしぶとく反撃、空爆だけでは壊滅することができないことがあらためて浮き彫りになっている。

 米軍のリビア攻撃は今回が3回目だが、米国防総省の報道官は「空爆終結の時期は決まっていない」と発表し、今後も空爆を続ける方針を示している。戦闘部隊は投入しないという「オバマ・ドクトリン」はここでも貫かれているが、その代わりに特殊部隊が極秘に展開し、民兵軍団に助言を与えているようだ。

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