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2010年2月1日

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 「そうですね。9歳の子の親が『この子はまだ6歳になっていない』と言い張って、私も泣きながら『この子にどんな人生を与えたいのか!』と話し合ったことがありました。親は自分の子どもが大好きだけど、どうすることもできないと思っている。でも、親の苦労を知り、教育のおかげで人生が変わった私みたいな者が話すのが、説得力があると言われます。まだ社会に貢献できていないけど、『私も頑張るから、みんなも頑張って』と言える私になってきているかなと思います」

 ヤンジンは、学校を建てるだけではなく、子どもや親のところを回って、頑張れ、頑張れと声をかける。明るさに溢れるヤンジンは、それだけで魅力的だが、問題を常に前向きに解決しようとする姿勢にも溢れている。明るさも前向きさも、家庭の中で育まれたものだと想像できる。毒気のないユーモアを交えた話は笑いを誘うが、両親や兄の話になると声が震えるのは、内に秘めた思いの強さゆえだろう。歩んできた道のりと人柄が合わさって、ヤンジンに触れた子どもたちも、頑張ることを身近に感じる。ヤンジンは、チベットの子どもたちの希望の星になっている。

 「日本にいれば、どんな夢でも持てる。子どもが夢の実現に向かう気力は、家族がつけてあげなければいけません。でも日本の親、特に父親は、子どもに自分が仕事で頑張っているところを見せる機会がないし、苦労もつらさも話さない。家の中はシーンとしています。お父さんもつらいけど頑張ってるってわかることが、子どもの心の中に、歩む力をつけると思います」

 自分が誰かの希望の星になっていると思うことが、人を頑張らせる。その頑張りが継続するためには、身近な人が元気いっぱい頑張っていることが欠かせないのかもしれない。家で、会社で、胸を張っている大人がどれだけいるか。時代のせいにしていては、何も始まらない。

 一昨年のラサでのデモなど、中国政府とのあり方をチベット民族は問われている。そのことについてヤンジンは何も語らない。教育は人に知識と技術を、何よりも自信と誇りを身につけさせ、そうやって民族は精神的に自立をしていく。国を立てんとした日本がそうであったように、ヤンジンも坂の上に同じものを見ているような気がする。(文中敬称略)

◆「WEDGE」2010年2月号


 

 
 

 

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