オトナの教養 週末の一冊

2016年8月26日

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 本書は、これら二つの事例はもちろん、世界と日本で起きた研究不正の事例を多数紹介しつつ、そのなかでも重大な不正についてその実態を掘り下げ、なぜ不正に至ったのかを分析する。また、不正の結末や不正を監視するシステムにも言及し、不正防止への処方箋を提案する。

不正事例を、研究者の視点から総覧

 著者は、がん細胞、発がんを専門とし、日本癌学会会長や日本学術振興会学術システム研究センター顧問、東京大学名誉教授、岐阜大学学長などを歴任した。一般向け、研究入門者向けの新書などを数多く著しているが、「一年前まで、研究不正についてそれほど関心があったわけでもなく、真剣に考えたこともなかった」と述懐する。

 「しかし、本を書き始めると、欧米では研究不正に関して、非常に多くの研究が行われているのに驚いた。一方、わが国発の研究不正に関する文献はほとんどない」。

 日本において研究不正は、あってはならない、隠しておきたいものとして、誰もまともに取り上げ、研究しようとしなかったのが、研究不正を蔓延させたひとつの背景になっている、と著者は分析する。

 したがって、本書に挙げられた42の不正事例には、本や映像にまとめられているほど有名な事件も含まれるが、それらを研究者の視点から総覧した、という点で、画期的といえるだろう。

「捕食ジャーナル」という困った存在

 近年の研究不正で特徴的なのが、インターネットやソーシャル・メディアの影響である。東京五輪エンブレム騒動やSTAP細胞事件にみられたように、ネット上のデザインや既存の画像データを容易にコピー&ペーストできる時代になり、不正に手を染めやすくなった。その一方で、不正を追及し、暴くのもソーシャル・メディアである。

 伝統的なピア・レビューに対し、誰もが意見を述べることができるのがソーシャル・メディア審査である。ピア・レビューによる論文審査が原則として性善説に立ち、サイエンスとしての価値を評価するのに対し、ソーシャル・メディア審査は、性悪説の立場から「あら探し」をする。ソーシャル・メディアによる評価の限界はこの点にある、と著者はいう。

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