世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月29日

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 クーデター制圧後、エルドアンは民主主義を壊し、トルコを更なる混乱に導き、冷戦後の欧州体制に打撃を与え、NATOを揺さぶっていると、7月23日付の英エコノミスト誌が論じています。論旨は以下の通りです。

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 トルコのクーデター未遂事件について、次の2点ははっきりしている。第1に、トルコの人々は勇敢に兵士たちに対峙し、結束して民主主義への攻撃を糾弾した。彼らは将軍たちよりも、選挙で選ばれた強権的指導者を選んだ。第2に、エルドアン大統領は人々が命を賭して護った民主主義を破壊し始めた。

 3カ月の非常事態を宣言し、兵士6000人を逮捕し、多数の警官や裁判官、クーデターと無関係な学者、教師等を解任や停職処分にした。エルドアンは、トルコを混乱に導き、周辺諸国や西側に重大な危険を及ぼすだろう。

 今回の事件は、①ロシアのウクライナ侵略・クリミア併合、②英EU離脱に続いて、ポスト1989年の欧州体制への第3の衝撃となるかもしれない。

 トルコの騒乱はNATOも揺さぶっている。トルコは事件の背後に米国がいたと非難し、米国在住のイスラム教指導者、ギュレン師が関与したとして彼の身柄を要求し、応じなければトルコは西側に背を向けると言っている。NATO第2の軍隊を擁するトルコは、ソ連や中東の混迷に対する西側の前方基地となってきた。また、安定したイスラム民主主義国として経済成長も遂げた。

 しかしここ数年、エルドアンは独裁色を強め、ジャーナリストを投獄し、軍を骨抜きにし、裁判官を脅して服従させてきた。

 もしエルドアンが賢明だったら、クーデターの失敗でトルコの軍国主義勢力は致命傷を負っていたかもしれない。また、メディアへの統制を解除し、クルドとの和平協議を再開し、分裂した国家の統合者となることもできた。しかし、彼は逆に被害妄想的で不寛容な行動をとっている。

 トルコの人々は、自分達のために、投票を通してエルドアンの独裁的権力に平和的に抵抗し、彼を抑制すべきだろう。西側も、エルドアンに抑制と法の尊重を促すべきだ。トルコは対IS戦における重要な同盟相手だ。また、欧州への東南の入り口にあたり、天然ガスからシリア難民までそこを通る。欧州は、外側の前線を適切に制御し、自らの脆弱性を軽減する必要があるだろう。

 一方、エルドアンが最大の成功を収めた経済が今は彼の弱点になっている。観光客のトルコ敬遠で経常赤字の拡大は必至だ。改善には、外国からの投資や借款が必要だが、エルドアンが復讐に燃える態度では、それも難しいだろう。

 反乱の影響は当分続くだろう。トルコでは多くの同胞が殺され、軍は信用を失い、前線防衛や対テロ戦能力も弱体化し、NATOも動揺している。権力への渇望がもたらした損害は大きい。

 出 典:Economist ‘Erdogan’s revenge’ (July 23, 2016)
http://www.economist.com/news/leaders/21702465-turkeys-president-destroying-democracy-turks-risked-their-lives-defend-erdogans

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