2024年4月24日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年2月4日

 成功論のおかげで大ベストセラー作家になったにもかかわらず、失敗から学ぶ効用を説くあたり非常に興味深い。アメリカ経済が1980年代以降、拡大を続け世界をけん引してきた成功体験から一転、世界的な金融危機の発火点となってしまった反省から、さすがにアメリカ人も謙虚に失敗から学びたいと思い本書に共感を覚える例も多いのかもしれない。あるいは、高水準の失業率に巨額の財政赤字という厳しい経済の現実を前に、常に成功することを求め続ける生き方に、アメリカ社会が本心では疲れを覚え始めているのだろうか。

MBAはあてにならない
成果主義で会社は良くならない・・・まるで日本!?

 優秀な経営者や、有名大学でMBAをとった優秀な人材たちが会社を成長させるという、アメリカ社会が盲信してきたカリスマ幻想にも疑問をつきつける。本書では、その最たる例として、経営トップが不正会計に走り2001年に破たんしたエネルギー商社エンロンをとりあげる。心理学者たちの手になる論文「カリスマのダークサイド」をもとに、駄目な経営者は3つのパターンに分類できることを次のように紹介する。

 One is the High Likability Floater, who rises effortlessly in an organization because he never takes any difficult decisions or makes any enemies. Another is Homme de Ressentiment, who seethes below the surface and plots against his enemies. The most interesting of the three is the Narcissist, whose energy and self-confidence and charm lead him inexorably up the corporate ladder. Narcissists are terrible managers. They resist accepting suggestions, thinking it will make them appear weak, and they don’t believe that others have anything useful to tell them. (p365-366)

 「第一は高好感度の風見鶏タイプだ。決して難しい決断をしたり敵をつくったりしないので、労せずして組織の中で上に上がる。もうひとつは、怨念の人だ。腹の中では煮えくり返り敵を陥れる策を練る。そして、3つのタイプのうちでもっとも興味深いのが、ナルシストだ。活力と自信、魅力があるおかげで確実に社内で昇進していく。ナルシストはとんでもない経営者になる。助言に聞く耳を持たないし、助言に従うこと自体が自分の弱みをみせることになると考え、そもそも、他人が有益なアイデアを持っているはずがないと思っているのだ」

 日本でありがちな経営者の3類型だ。一握りの強いリーダーシップをもった経営者が、優れた会社を作り上げるという、アメリカ的な企業カルチャーの思い込みへの痛烈な皮肉でもある。さらに、MBAをとった優秀な学生を大量に採用しても、会社がよくなるわけでもないと、次のように諭す。

 The talent myth assumes that people make organizations smart. More often than not, it’s the other way around. There is ample evidence of this principle among America’s most successful companies. Southwest Airlines hires very few MBAs, pay its managers modestly, and gives raises according to seniority, not “rank and yank.” Yet it is by far the most successful of all United States airlines, because it has created a vastly more efficient organization than its competitors have. (p371)

 「人が組織を優れたものにするのだという、人間の才能に対する神話がある。多くの場合、それは逆だ。アメリカの優れたいくつかの会社のなかに十分な証拠がある。サウスウエスト航空はMBAをほとんど雇わない。経営者の報酬も普通だし、年功序列で給料も上がり、成果主義ではない。それでも、アメリカの航空会社のなかでははるかに成功している会社だ。ライバル各社に比べ、非常に効率的な組織を作ってきたからだ」


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