ベストセラーで読むアメリカ

2016年8月30日

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テロが起きるはるか前、
同じ場所で人身売買が行われていた

 筆者は本書で、大学時代の友人を警官に射殺され、その事件をジャーナリストとして取材した経験も記している。その友人は黒人だったものの裕福な家庭の出身で、警官に対して脅威となるような人物ではなかった。人違いが原因で殺されたという。大切な友人だったプリンス・ジョーンズを警官に殺された筆者は、2001年9月にマンハッタンでワールドトレードセンターが倒壊するテロが起きた時も、アメリカのために心を痛めることはなかったと次のように述懐する。

 But looking out upon the ruins of America, my heart was cold. I had disasters all my own. The officer who killed Prince Jones, like all the officer who regard us so warily, was the sword of the American citizenry. I would never consider any American citizen pure. I was out of sync with the city. I kept thinking about how southern Manhattan had always been Ground Zero for us. They auctioned our bodies down there, in that same devastated, and rightly named, financial district.

 「しかし、アメリカの廃墟をみながらも、私の心はさめていた。私なりに大惨事を抱えていたからだ。プリンス・ジョーンズを殺した警官は、アメリカの一般市民が持つ殺戮兵器なのだ。われわれ黒人を油断なく見張る全ての警官も同じだ。清廉潔白なアメリカ人がいるとはけして思わない。わたしは、ニューヨークの悲しみには同調できなかった。マンハッタンの南部がかつて、われわれにとって常にグラウンド・ゼロであったことを考え続けていた。まさにそこで、その同じく荒廃した、その名もずばり金融地区で、われわれ黒人の体が競売にかけられていたのだ」

 マンハッタン南端のテロが起きた場所はかつて、黒人奴隷を売買するマーケットがあった場所だ。テロが起きるはるか前に、人身売買という黒人に対するテロ行為に等しい残酷な仕打ちが行われていたことに、筆者は思いをはせたわけだ。そして、次のように記す。テロによる被害者であるという認識を持つアメリカの一般国民にとっては、かなりどぎつい主張として響くだろう。

 But I did know that Bin Laden was not the first man to bring terror to that section of the city. I never forgot that. Neither should you.

 「しかし、わたしはニューヨークのその区画に恐怖をもたらしたのは、ビン・ラディンが最初ではないことを知っていた。そのことをわたしは忘れなかった。お前も忘れてはならない」

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