ベストセラーで読むアメリカ

2016年8月30日

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いまだ存在する深い断絶

 さらに、アメリカの豊かさは黒人奴隷たちの犠牲のうえに成り立っていると筆者は言い放つ。

 At the onset of the Civil War, our stolen bodies were worth four billion dollars, more than all of American industry, all of American railroads, workshops, and factories combined, and the prime product rendered by our stolen bodies―cotton―was America’s primary export. The richest men in America lived in the Mississippi River Valley, and they made their riches off our stolen bodies.

 「南北戦争が始まった当時、われわれ黒人の肉体は40億ドルの価値があった。アメリカの全産業を上回る価値があった。アメリカの鉄道や事業所、工場をすべて合算したものより価値があったのだ。そして、われわれの盗まれた肉体をつかって生み出された一級品であるコットンは、アメリカの主要輸出品だった。アメリカの最も裕福な人たちはミシシッピー・リバー・ヴァレーに住み、われわれ黒人の盗まれた肉体を元手に富を手にしたのだ」

 筆者は自分の息子に対して、明るい未来への期待などを語ったりはしない。血塗られたアメリカの歴史を直視し、丸腰の黒人が警官に射殺される事件が今でも相次ぐ現実を淡々と語りかける。あくまでも息子に語りかけるだけで、白人たちに反省や謝罪、改革を求めることはない。現実を現実として受け入れ息子に生き延びる術を伝えようとしている。

 こうした本がベストセラーとなることを、どう受け止めるべきなのだろうか。ましてや、アフリカ系アメリカ人(黒人)の間で、この種の本が人気となるとも思えない。読書界はやはり白人主導の文化だろうから、読み手の多くは白人と思われる。この本を読んだアメリカ国民は、自分たちの国に根強く残る人種の壁に気づかされるに違いない。

 ホワイトハウスにアフリカ系アメリカ人の大統領がいるとしても、アメリカの社会にはなお、深い断絶が存在するのだ。

 なお、黒人という言葉を差別的だとして、アフリカ系アメリカ人という表現を使う向きもあると思われる。本書の筆者が黒人という言葉を使っているので、本稿ではその表現にならった。

(訳文には適宜、理解を助けるため言葉を補っており、逐語訳にはなっていない場合があることをお断りします)

  
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