2024年4月26日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年2月16日

●本のにおいもいっぱいかげると思ったんでしょうか。

——そういうわけでもないんですよ。図書館だと本のカバーをむいて並べるから、味わいの点ではいまひとつなんです。

 昔の辞書だと、小口(本の部分名称。本背と反対側の、ページを開く側)にいろいろ模様が入っていたりするのがあったでしょ。ああいう味わいが好きでした。自分で小口にしましまを書き込んだり、ぼろぼろになった古い辞書の表紙をはいで、いらなくなった日記帳のビニール装のビニールに張り替えたりして。古本屋で買ってきた辞書は汚かったので、製本材料をいろいろ買ってきて、布ばりのハードカバーもつくりましたね。モノとしての本への愛着は強かったと思います。

●大学では、どんな研究を?

——学部のときは、索引(コンコーダンス、インデクシング)の研究をしました。コンコーダンスというのは文脈つき索引。ある言葉を中心に、それがどんな文脈で使われているかがわかる索引です。もともとは、聖書に出てくる言葉を、その言葉がどんな文の中で使われているかも含めて索引にしたものです。インデクシングは索引を作ることですね。

 当時は、ようやく電子テキストがでてきた頃。電子テキストに対してプログラムで索引を作るとかいう話が出てきたので、それを整理してみたんです。

 索引は、実は言葉を単語から句、句から文、文からテキストになるという考えで捉えていては生まれないイメージなんです。ひたすら言葉を分類していくのは、まるで砂粒を数えるような作業ですが、面白かったですね。

入沢康夫著『詩の構造についての覚え書』(思潮社)

●モノとしての本から情報の世界に移る抵抗というのはなかったんでしょうか。

——モノとしての本と言葉の境界には何があるのかっていうのが、僕は小さい頃から全然わからなかったんです。そういうことを日常的に感じている人はほかにもいて、たとえば詩人の入沢康夫さん。『詩の構造についての覚え書』(思潮社)という本を書いていて、単語を並べて詩になるなら、本を並べた本棚は詩にならないのか、という話をしています。

 言葉については、大きく分けて言語学とメディア論という2つの学問分野があります。大雑把に言って、言葉を扱うのが前者で、新聞や本を扱うのが後者とされています。


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