2024年4月25日(木)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年2月12日

 さらに、自分の持家だけを主たる資産とする高齢者が多くいることも、大きな成長フロンティアだ。現状では、家屋を所有していても、そこに住んでいる限り現金化は容易ではない。しかし、自宅を担保としつつも生前清算しない形で老後生活資金の調達が柔軟に出来る貸付制度(リバース・モーゲージ)が整備されれば、もっと消費をし、豊かな生活を享受できる余地が増えることにもなる。このリバース・モーゲージ制度の整備も「新成長戦略」に掲げられている。

 ちなみに、個人の消費に占める家賃、つまり住宅保有コストは近年上がっている。20年前に比べると、5%ぐらい我々の消費のなかで住宅保有コストを余計に払っているのだ。優良な中古住宅の流通市場を整備するなどして住宅の取得・維持費用を減らすことができれば、その分他の消費が余計にできることになる。

世界経済の常識に合わせることが最大の成長戦略だ

 以上のような項目以外にも、成長フロンティアや成長戦略は多々挙げることができよう。ただ、ここで指摘したいのは、日本が新たな環境に適合した経済・社会の枠組み作りを十分かつ迅速に行ってこなかったことが、多くの成長機会を取りこぼし、足元の経済低迷と成長フロンティアの多さに結びついているということだ。

 本来であれば、もっと経済の仕組みを効率的にかつ合理的にしていれば、より高い経済成長とより豊かな社会が実現していたはずである。ところが、既得権益等種々背景はあるにしても、対応の遅れで厳しい現状をもたらしてしまっているのは、いかにも残念である。

 しかし、これから何もしなければ、事態はさらに深刻になるばかりだ。そうであれば、農業・サービス業など生産性の低い産業・企業分野やポストドクター問題など人的資源の不十分な活用などを含めて、日本が成長フロンティアのデパートのような状況になっていることは、残念であると同時に喜ばしいことでもある。それは、見えている成長フロンティア(=経済課題)を開拓すればするほど、経済は活性化し、社会の枠組みも安定することが明らかだからだ。

 また、ここまで成長フロンティアが多いのであれば、もう個別の弥縫策ではなく、包括的な根治策を打つしかないことも明らかである。要するに、日本の経済・社会システム全般が見直しを必要としており、今のグローバルな時代要請に合った形に大修正しなければならないということである。

 では、包括的な根治策とは何か。やはり少子高齢化が過度に進み、人口減少が加速する事態は世界的に見て普通ではない。ならば、抜本的な少子化対策などを行い、種々の方策で労働人口を含む人口減少を食い止めることは大前提であろう。また、種々理由があっても、成長する世界経済の中で日本経済だけが沈むのも普通ではない。そうであれば、内外シームレスな市場を作り、世界経済の成長は日本の成長とすることも当然やらなければならない。

 これらのことは、日本の経済・社会のあり方を、グローバル化が進んだ世界経済に共通する常識に合致させる方向であろう。もちろん、日本は日本であり、我々が定見のないコスモポリタンになってはならないが、日本で常識と思われていることが世界の非常識になっているものも数多くある。個別の成長フロンティア開拓はぜひ行わねばならないが、世界経済の常識に即して包括的かつ抜本的に日本経済を見直すことこそが、実は最大の日本経済・社会の復活策であり、成長戦略なのである。

 

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