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「文革」を生きた一知識人の回想
朱 沢秉 著  細井和彦・李 青 訳

目次 立ち読み

ごく普通の家庭に生まれ、両親や兄弟と暮らしていた少年・沢秉。
ある日、突然父親が逮捕された。母は病に倒れ、兄弟はバラバラに。学校でも目立たないように過ごすしか生きる術がなく、勉強したいのにすることも叶わず、ついには進学の夢さえも国に奪われた。失意の中、母は亡くなり、そして父は決して家族の元に戻ることはなかった……。いまも中国では触れられることのない「文革」。それに翻弄されたごく普通の家族の、衝撃の記録。

<書籍データ>
◇四六判並製、276頁
◇定価1680円(本体1600円+税)
◇2010年2月20日発行

<著者プロフィール>

朱 沢秉(しゅ・たくへい)
1947年南京生まれ。66年北京五中を卒業後、68年江西省南城県株良公社雲市村に下放される。72年春撫州師範学校に入学、翌年夏に南城県潯渓公社中学校教師となる。81年株良公社中学、86年南城県教育局、91年撫州第一中学に勤務。2007年定年退職。中国在住。
「江西文芸」「江西教育」「信息日報」「教師報」「江南詩詞」「当代散文」等の雑誌に、詩歌、散文を多数発表。

訳者プロフィール
細井和彦(ほそい・かずひこ)
鈴鹿国際大学教授。専門は東洋史、中国近現代史。共訳書に『蒋介石──マクロヒストリー史観から読む蒋介石日記』(東方書店)がある。

李・青(り・せい)
大谷大学准教授。専門は中国現代文学。著者の朱沢秉は叔父(母方)にあたる。著書に『楽しい中国語会話』(晃洋書房)がある。

 

 

<立ち読み>
第一章 十年間の悪夢「一.父の逮捕」より

 昼に学校から家に帰ると、恐ろしい光景が目に入った。部屋中が乱雑に散らかっており、机の上、ベッドの上、地べたに服や書物が転がっている。母親は椅子に腰をかけて、すすり泣いていた。父が出勤時に反革命罪で逮捕されたことがわかった。警察の家宅捜査がなされたばかりだった。地下に発信器が隠されているのではと疑われ、床板までもがひっぺがされていた。
反革命! 何と恐ろしい言葉なんだろう!
僕はすぐに人殺し、放火、爆破、毒の散布、敵との秘密連絡……などを連想してしまった。父親はそのような人間なのだろうか?
母親は涙を堪えながら、教えてくれた。「お父さんは文章を書いて、逮捕されたんだよ。あれほど書くなと言ったのに、聞いてくれなかったのよ。大鳴大放して、党の整風を助けるためだから、大丈夫だと言って。ほら、騙されたでしょう。右派の上に、今度はまた反革命と言われたの」。母の途切れ途切れの言葉には、不安、戸惑い、不平、焦慮と無力さが滲んでいた。しかし、もっとも堪えているのは心の苦痛である。母はこの突如の打撃にまだ十分心の準備ができていないからだ。
その日は一九五八年三月六日、僕は小学四年生だった。そのとき、父の逮捕がそんなに重大なことだと知らなかった。この日を境に僕の運命も大転換するとは、想像だにしなかった。この日から僕は「犬っころ」となったのである。
父の朱沛人は逮捕時に、『大公報』の記者だった。一九五七年、毛沢東は知識分子に党の整風を助けてくれるように呼びかけた。これは陰謀であり、目的は知識分子を穴蔵から誘い出して殲滅することだったと毛沢東はのちに告白している。父は災難から逃れがたかった。というのも、『大公報』の「大鳴大放」欄の責任者だったばかりか、「大鳴大放」期間中に自身も文章と発言を発表していたからである。父は当然のごとく右派にされた。
(中略)
母の沈瑜麟は当時無職だった。上の姉の阿敏は高校生だった。兄の阿和は中学生だった。下の姉の阿敬と僕は小学生だった。僕たち一家は父が新聞社からもらう収入で生活していたため、父が逮捕されると、すぐに苦しい立場に追い込まれた。母は服売りになり、しばらく前に買ったばかりの『魯迅全集』も母が売り払った。
学期末になると、次の学期の雑費を支払わなければならない。母は僕の担任の先生に免除の申請をしたのだが、思いがけないことに拒否された。担任の先生は僕に言った。「あなたの家にはまだ蓄えがあるはずです。どうして払えないことがあるんですか」と。
僕ははじめて屈辱というものを感じた。目に涙があふれた。
(続きは本書でお読み下さい)

 


<目次>

 

第一章 十年間の悪夢
父の逮捕/一家離散/面会/苦難に満ちた日々/くれぐれも階級闘争を忘れるな/犬っころたちの境遇/恨みを晴らせないまま、母が逝く など

第二章 苦海に船を漕ぐ
すべては変わった/どこに身を寄せるか/僕のユートピア実験/伯母の自殺/理想はどこにあるのだろう/どっちに向かって進むのか/意外な喜び など

 

第三章 一筋の光明
父の心のなか/教師は販売員よりも身分が低い/特権のないところはない/破られた大学への夢/匿名の手紙がもたらした訃報/父のいた強制労働農場/無実の罪を晴らす など


解説──北村稔(立命館大学教授) 

 

 

 

 

 

 

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