2024年4月18日(木)

WEDGE REPORT

2016年9月12日

 トルコは侵攻したシリア領内に100キロ四方の「緩衝地帯」を設置、この一帯を「ノー・フライゾーン」(飛行禁止空域)として、トルコの安全保障地帯とするとともに、トルコが抱えるシリア難民約200万人の居住区にしたい考えだ。安全保障ベルトと難民の帰還先を一挙に確保する一石二鳥の構想だ。

 トルコは侵攻した国境沿いに急ピッチで電線を設置しつつあり、シリア領内の支配地域に電気を供給し、緩衝地帯に向けた布石を着々と打ち始めている。中東地域では、今回の停戦に当たって、トルコとロシアがシリアの支配をめぐって秘密取引をしたとの観測も出回っている。

 流布されている取引は、ロシア支援のシリア政府がアレッポの支配権を握ることを反体制派支援のトルコが了承。その見返りとしてロシアはトルコがクルド人勢力を自由に攻撃することを黙認するというものだ。

 いずれにせよ停戦の影で鮮明になってきたのは、シリアの分断の固定化が一段と進んでいるということだ。シリア政府は首都ダマスカスと最大都市アレッポ、そして東部の地中海沿岸地帯を「小シリア」として支配。

 トルコは“緩衝地帯”である北部の一帯、クルド人は北東部地域、政府軍を支援するレバノンの武装組織ヒズボラはシリア南部のレバノンとの国境地帯、反体制派地域はスンニ派教徒が支配、といったような将来のシリア像が浮かび上がっている。

 しかしこうした分断化の固定はIS壊滅の大きな障害になる。死に物狂いのISから多大な血を流して領土を奪回するよりも、確保した自分たちの支配地を守ろうとする力学が働くからだ。米国は先頭に立ってIS壊滅の旗を振っているが、地上での地元の戦闘勢力が誰もいなくなるという最悪の事態に直面してしまうかもしれない。

  
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