2024年4月20日(土)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年2月17日

『アバター』 (c)2009 TWENTIETH CENTURY FOX

 黒澤さんについて僕がいつも凄いと思うのは、そういう絵、そういう画像をつくる力、ですねえ。

 このあいだ『アバター』見てきましたよ。今だったら確かにCGでどんな絵だって作ることができるでしょうけど、そういうものを一切使わずにね。これがどんな映画人も唸らせたんだと思うなあ。

 『七人の侍』(1954年)にしたって、あの、しのつく豪雨の中の合戦の絵ですよ。その切り取り方です。

司会 見た者が、何年経っても目を閉じるとハッキリ浮かんでくる、そういう絵をつくる力、でしょうかねえ。

映画にも「窯変」があると

原さん(手前)と浜野保樹さん(中央)、司会の谷口智彦さん

原 そうです。そういう絵をあらかじめイメージする力が黒澤さんにはあった。元は画家だったということもあるでしょう。絵をつくる力って、あるんじゃないかなあ。
そしてそれを実現するための、スタッフに対するこだわりです。

司会 これぞ映画、This is 映画っていうシーンが、究めて究めて究めて行くと必ず現れる、撮れるものなんだという、職業的勘みたいなものがあったんでしょうか。

 だろうと思うけどなあ。粘ってると、そういう場面に遭遇するみたいです。「窯変(ようへん)」って、そこのことを黒澤さんはよく言ったもんです。釉薬(うわぐすり)をかけて窯(かま)に入れる。それで焼きあがると、思いもかけないような変化が焼き物に現れますよね、あれです、「窯変」。 「映画にも窯変があるんだ」って、よく言ってましたよ。

浜野 そこまで行かずに終わろうとすると、怒るんです。だから粘って粘って…。

 これは才能なんでしょうね、もって生まれたもの。

司会 突飛な空想ですが、今日まだ存命だったとして、現代のCG技術などが使える状態で、そういう窯変ですとか、This is 映画のシーンですとかを、どんなふうにつくられましたかね。

なまじ技術に詳しくない方がいい

浜野 監督が言っていたのは、技術に関して細かいことを知らない方がいい、と。イメージだけ伝えて、それを技術者がつくって持ってくる。それにダメを出す。こんなんじゃない、やり直せ、って言う。

 そこでもし監督自身が技術に通じていると、やっぱりここまでだろうと自分自身、限界を設定してしまうんだそうです。

 なんにも知らないことにして、なんだこれは、と。ここまでしかできないのか、って言って、スタッフに考えさせる。ブレークスルーはそこに起こる、と。ちょこまか下手に技術を知って、それにとらわれるヤツはだめだとよく言っていました。


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