2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月29日

 豪州が、安全保障では米国、経済では中国のジレンマに立たされているというのは、その通りでしょう。中国との関係ではまず、中国が食料、鉱物資源の輸出先として、豪州にとり極めて重要であるという事実があります。今や中国は豪州の輸出の3分の1を占め、豪州の最大の輸出相手国です。豪中経済関係は貿易に止まりません。中国の対豪投資は、2015年には150億豪ドル(約1兆2300億円)と過去最高となりました。分野は鉱業に限らず、不動産、健康医療、農業に及んでおり、特に最近は不動産投資が盛んで、中国の対豪投資の45%に達しています。

永久に避けられないジレンマ

 人的面でも関係が急速に進んでいます。豪州を訪れる中国人観光客は、2014年12月~2015年11月の1年間で100万人を突破し、過去5年で2倍となりました。論説は、昨年5万人近い中国人学生が豪州に留学したと述べています。

 豪州における中国の存在は近年急速に拡大していますが、他方で、論説も指摘する通り、米国のアジアシフトもあり、安全保障面では米豪同盟は強化されています。安全保障を米国に経済を中国に頼るという立場が豪州の世論に反映され、米中がアジアの助けになるか害になるかの質問に対し、豪州の国民は米中両国に同じような評価を与えていると言います。「豪はこのジレンマを永久に避けられない」というのは、必ずしも誇張とは思えません。豪は安全保障で米国に頼らざるを得ないですが、中国を刺激して経済的報復を受けることを恐れています。中国が豪州の食料、鉱物資源の最大の顧客であり、中国が豪州経済にとってなくてはならない存在であることを考えれば当然の反応といえます。

 しかし、豪州はアジア・太平洋の安全保障にとって、日米の重要なパートナーです。特に中国の南シナ海進出を抑止するために豪州の協力は欠かせません。

 日米としては、豪州のジレンマは十分理解しつつも、豪州の経済面での対中依存が、安全保障面での協力にマイナスの影響を与えないように努力する必要があります。そのためにはまず豪州との不断の対話が不可欠です。それに加え豪州の国民が南シナ海問題を含む中国の意図を正しく理解し、中国に対する警戒心を持つことが望まれます。最近中国の豪州の不動産投資急増に対し、一部に警戒心が出てきていると報じられていますが、当然です。論説の指摘する中国の対豪世論工作についても、豪州国民が実態を理解することが必要でしょう。

  
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