2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月30日

 この小論の論旨は明快ではありませんが、英国は時間をかけても離脱戦略を練り現実的なオプションを整理すべきこと、他方、EUは現行のモデルをより柔軟なモデルに見直し、その作業の関連で英国とは密接な関係を構築すべきこと、を論じています。

離脱相と国際貿易相で権限闘争

 時間をかけて良いと筆者は書いていますが、国民投票から2カ月すぎても、離脱戦略の検討は全く進んでいない様子です。それどころか、ジョンソン外相とデービスEU離脱相およびフォックス国際貿易相との間で権限闘争が展開されています。EU離脱省と国際貿易省という外務省を始め他の省と担当分野が重なる二つの省を新設したのですから、当然起るべき紛争が生じているともいえるでしょう。報道によれば、外務省の欧州部局とブリュッセルのEU代表部はEU離脱省の管轄に移行するようです。フォックスは外務省の経済部局の吸収を目論み、ジョンソンと対立しています。彼は国防省や財務省の貿易関係部局の取り込みも狙っています。従って、EU離脱省と国際貿易省の陣容は未だ整わず、離脱戦略どころではないようです。

 テリーザ・メイは来年始めにはEUに離脱通告を行うとしていましたが、これが遅れて来年末頃になるのではという憶測も見られます。この小論は来年春にはオランダの議会選挙とフランスの大統領選挙、秋にはドイツの議会選挙が予定されていて、それまではこれら諸国は柔軟にはなり得ないので、離脱通告が遅れることになっても構わないといっているように読めます。しかし、先行き不透明な状態をそこまで引き摺ることの可否が問われざるを得ないでしょう。

 小論は離脱交渉において人の移動の自由について或る程度の制限を課すことに合意が成立する可能性に言及しています。英国を除くEU諸国に見られる排外主義的感情は専ら中東や北アフリカからのムスリムの移民に向けられたもので、他のEU諸国からの移民に向けられたものではないように見えます。しかし、この感情がEU諸国からの移民にも向けられるのであれば、そしてそれがオランダ、フランス、ドイツの選挙を通じて露わになるようなことがあれば、英国の望む移民の流入急増の場合の緊急ブレーキの仕組みに合意が成立するかも知れません。換言すれば、離脱通告と交渉を遷延させることによって一転してBrexitを回避することが可能になるということかも知れません。

  
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