2024年4月20日(土)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年3月1日

 『グラン・トリノ』(2008年作品)とか、クリント・イーストウッドの近年の作品は脱帽ものだよね。

浜野
 あぁ、こういう映画まだつくれるんだ、って思いましたね。 

「電車男スタンダード・エディション」¥3,990(税込)     
発売元:博報堂DYメディアパートナーズ  販売元:東宝

 『電車男』(村上正典監督2005年作品)って映画見たとき、発見したような気がしたのは、「好きになることがそんなに苦しいことなら、別れましょ」って、確かそんなセリフ、ね。

 人間て、近づくと傷つけあうものでしょう、生きているんだから。「あぁそうか、傷つけあうことを恐れる世代が現れたんだ」、って、あのセリフを聞いて分かったの。

 そう思ってオフィスを見回すと、やけに静かだよね。みんなパソコンで会話してるから。そこへいくと黒澤さんなんて、傷つけるのなんか平気だったからね。よく言われたものですよ。「手を抜くなよ」って。「考えて、考えて、考え抜いて、それで手を抜くな」と言うんですね。こういうことを言うと、――さっきのwith loving careも同じだけど、それが何か野暮ったいことのように思われるという、そういう時代なんだね。

 傷つかないで、何か生まれるのか。一所懸命やってると、どっかで傷つかざるを得なくなるものでしょう。

監督とプロデューサーは夫婦みたいなもの

司会 原さんがおやりになった映画プロデューサーという仕事は、必然的に監督と衝突するものでしょう。脚本をつくって、資金調達もして、という立場なのですから。

原 『炎のランナー』(2)(1981年イギリス作品)って映画をつくったイギリスのプロデューサーで、デイビッド・パットナムて僕の好きな人がいてね。彼とはお互い若い頃、『小さな恋のメロディ』という作品を通じて親しくなったんですが、その彼がプロデューサーと監督は「夫婦みたいなもんだ」って言った。そのココロはというと、しょっちゅう喧嘩してる。でもどこかで尊敬しあってる。 だから、喧嘩しないでなあなあでやっていると、それなりの映画しか撮れないってことです。そして黒澤さんの凄いのは、相手が傷つこうが傷つくまいが、強引に自分のペースに巻き込んでしまうっていう力だったのかなあ。

浜野 黒澤さんの通ったあとは、死屍累々。 

「乱」¥3,990税込 発売元/販売元:角川映画
(C) 1985 角川映画

 でもねえ、出来上がった作品見て、許しちゃうわけですよ。こういう作品つくる人だったんだからしょうがないや、って。僕自身『乱』でナン億円て借金抱えて、それでもそう思いましたもん。『乱』で思い出しましたが、クランクインして最初の撮影は、主人公の武将が住まう館の居間で、これが全面金で塗ったしつらえなんだ。やおら来た黒澤さん、一目見て「全部塗りなおせ」って言うんだよね。僕は泡食ってね、まだ40代の若造だったし。

『炎のランナー』(2)
ヒュー・ハドソン監督の第54回アカデミー賞作品賞受賞作品。1924年のパリ・オリンピックに出場した2人のイギリス青年を描いた。


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