2024年4月24日(水)

家電口論

2016年10月6日

ソニーの復活はあるのだろうか?

 人口に膾炙されたいわゆるソニーブランドというのは、この技術が強かった1995年までのイメージ。ここまでのソニーは実に格好良かった。技術一本。周りは全部敵(β戦線の時)でも自分の技術を高らかにアピール。VHSを買った人でも、ソニーの格好良さは認めていたくらいだ。そして、次から次へと新しい提案。ウォークマン、CD。その商品群は未来を感じさせた。

 1995年以降、ソニーは多少の技術は作ったかもしれないが、「それまでの技術遺産」であり、「ありものの技術」であり、それまでの底光りするような雰囲気は持っていない。表面を飾り付けていると言ってもいいし、媚びていると言ってもいい。「自分のやりたいことを押し通す」、だから創業者が率いるメーカーは面白いが、盛田氏がいなくなって数年で中央研究所がなくなったわけで、「変わってしまった」としか、言いようがない。

 もしソニーが大々的にビジネス誌などで、報じられるとすると、それは「メーカー」ではなく、メーカー母体の商社のような会社だと思える。今も、モノ作りは足を引っ張っているが、金融は好調と聞く。もしも、メーカーとして真に復活する気なら、技術者を育てる文化を作り直さなければならない。よそから技術を買うのではダメなのだ。というのは、技術は技術者のモノであり、会社のモノになっていない。理由は、「技術は人継承」だからだ。しかも今のデバイスなどは、いくつものメーカーが、何億、何十億という開発費と人を掛けているわけで、個人と言うより集団。ちょっとや、そっとでは、その差は埋まらない。埋めるには、優秀な人を惜しみなくつぎ込まなければならない。非常に険しい道のりの上、それをしても必ず勝てるとも言えない。一度手放した内部資産は、元に戻らないのだ。

 今のソニーは、1995年までのソニーのイメージをブランド継承させようとしているし、周囲もそれを期待している。今回の38万円ウォークマンもイメージ戦略の一つだと思うが、これはソニーではない。ソニーは過去にも、今回に似たこともやった。2003年〜2005年にソニーがAVの高級ブランドと位置づけた「QUALIA」。こちらも品質のためには、お金を惜しまない手法。手作りの製品も多かった。しかし、ソニーブランドの地位を高めることはできなかった。それはソニーは、面白い製品を技術を駆使して世に問うメーカーであり、全てを最高品質で散りばめると言うこととは違っているからだと思う。

 私は、この無酸素銅シャーシのウォークマンは、ソニーブランドでなくてもイイ気がしてならない。ソニーである必然性が感じられないのだ。ソニーブランドは、「面白くて」「未来感」のあるブランドで、それを「最高の技術で支えてきました」が、それが感じられないのだ。もしこれをピュア・オーディオメーカーのデノンなどがやっていたら、さすが本格派と言われたかも知れない。ソニーは話題作りで出したのだろうが、ソニーらしくないのだ。

 ただし、これは「NW-WM1Z」が38万円に相応しい音再生ができるかとは、違う議論。あくまでも「ソニー」というイメージと、それを支えた技術に対する一つの考えである。

  
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