2024年4月20日(土)

前向きに読み解く経済の裏側

2016年10月10日

経済構造が変化していると、過去データはミスリーディング

 江戸時代のデータを用いて日本経済の将来を予想しようと考える人はいないでしょう。当時と今では、経済構造が全く異なっているからです。しかし、人々が経済構造が変化していることに気付いていない場合には、ミスリーディングなことが起こり得ます。かなり前のことですが、筆者が経済予測で珍しく(笑)大ヒットを飛ばした話をしましょう。

 高度成長期の日本製品は、「安かろう悪かろう」と言われていました。「日本製品は、品質は悪いが値段が安いから買おう」と先進国の人々に思われていたわけです。しかし、その後の安定成長期に、日本製品は品質を大いに向上させ、プラザ合意(1985年)の頃には、世界中で「日本製品は品質が良いから買おう」と思われるようになっていたわけです。たまたま筆者はプラザ合意当時、米国留学中だったので、米国製自動車より日本製自動車の方が信頼性が高いことを熟知していたのです。

 留学から帰国して調査部に配属になった筆者は、貿易収支を担当することになりました。当時は、「円高になると、外国人から見て日本製品が割高になる。値段の安さで輸出を伸ばして来た日本製品にとって、大きな打撃だから輸出は激減するだろう」という予測が通説でした。当然、過去のデータからも「円高になると輸出数量が減少する」といった分析が多数導かれていたわけです。

 そこに筆者が「日本製品は品質で売れているので、円高になって日本製品が割高になっても世界中で売れるはずだ」という「勘ピューター予測」を出したわけです。結果は大当たりでした。

 後日、円高後のデータが出そろった後で、「高度成長期とプラザ合意後について、円高と輸出数量の関係を分析すると、明らかな違いがある。これは経済構造が変化した事の証拠である」というレポートを書いたのです。何十年も調査関連業務に従事していますが、最大のヒット作が駆け出しだった時の当該レポートだったというのは、ビギナーズ・ラックとしか言いようがありませんが(笑)。

日本経済の潜在成長率をゼロと考えるのも危険

 最近の話としては、アベノミクスで労働力不足になったことが注目されます。「経済成長率はほとんどゼロなのに、労働力不足になった。ということは、日本経済は、もう成長出来ないのだ(潜在成長率がゼロである)」という人がいるからです。しかし、これも過去データ妄信による誤りでしょう。

 これまでは、失業者が大勢いましたから、日本企業は省力化投資を行う必要がありませんでした。安い労働力が簡単に雇えたからです。しかし、最近では労働力が不足するようになって来ましたから、日本企業が省力化投資を本格化するでしょう。そうなれば、経済が成長しても労働力不足が深刻化しないかも知れません。言い換えれば、省力化投資をした分だけ経済が成長することが出来るようになるわけです。


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