2024年4月19日(金)

WEDGE REPORT

2016年10月8日

 一方、オランダを離れ、次に訪れたのがドイツのベルリンで毎年開催される、世界最大の家電見本市『IFA 2016』。そこは毎年フィリップスの巨大ブースが作られると同時に、全世界から集まる記者たちに向け、プレスカンファレンスが開かれ、幹部たちが一同に会し、今後のフィリップスが向かう方向性などが示される場となっている。筆者も5年ほどずっと通い続けている定例会みたいな場だ。

IFAでも家電からヘルスケアへ

 フィリップスのパーソナルヘルスビジネスのCEOで、チーフマーケティングオフィサーのピーター・ノータ氏は、プレスカンファレンスの場で「変化の早い世の中で、今後はヘルスケアにより注力する必要がある。我々が2万5000人を対象に行なった調査により、一般の人の74%が健康に気を使っていると回答したのに対し、医師の75%は患者にもっと健康に気をつけるべきだと答えており、認識にかなりのギャップが生じていることがわかった。我々は、クラウドベースのヘルスケアソリューションで、このギャップを埋めなければならない」とコメントしている。

 実際、今年のフィリップスブースを取材して非常に驚いたことは、昨年までとは様相をガラッと変えてきたこと。これまではA&V製品や家電製品、照明などがメインで、ヘルスケア製品はあくまでも脇役的存在だった。が、今年はブースの半分がヘルスケア製品やビューティー製品のスペースに、むしろA&V製品や家電、照明などは脇役へと追いやられた。当然、プレスカンファレンスの発表の順番もヘルスケア製品やビューティープロダクトがメインで多くの時間が割かれ、A&V製品や家電、照明はわずかといった印象だった。

 しかも、フィリップスはこの『IFA2016』にて、さまざまなヘルスケア製品をいずれもIoT化してきている。昨年はせいぜい赤ちゃんの状態を常に監視するカメラや、回転式シェーバー「7000シリーズ」ぐらいで、そのほかはプロトタイプがいくつかあるだけだったと記憶している。

 だが、今年はカメラに続き、赤ちゃん用の体温計、床面に近い空気を特にきれいにする赤ちゃん用の空気清浄機などがIoT化され、すでに実用レベルで展示されていたほか、日本でもおなじみの子供用、そして大人用の音波式電動歯ブラシ「ソニッケアー」、さらには睡眠時無呼吸症候群の治療器「ドリームファミリー」などがやはりいずれもIoT化していた。かつ、驚いたことにそれらをすべて専用アプリ『uGrow』によってクラウド上でデータ集約、管理できるように繋いでしまった。

「赤ちゃんはしゃべることはできないが、データでしゃべることができる」といっていたのはフィリップスのブース説明員だが、実はそれは赤ちゃんだけではなく、子供も大人も同じだ。例えば、赤ちゃんの体温を計り続けることで、体温との体調の相関関係が見えてくるだけではなく、子供も大人も、歯を磨いたつもりでも実際にはあまり磨けていないものなので、それを「ソニッケアー」でデータとしてしっかりと記録し続けることで、“磨いたつもり”から“ちゃんと磨いた”へ生活習慣をシフトできる。

 命にも関わる睡眠時無呼吸症候群患者の呼吸データなどは、患者自身は眠っているので当然分からない。それを「ドリームファミリー」でしっかりと記録、医者とIoTで共有できれば、診療時に問診では浮かび上がらない真の睡眠習慣データなどが医者にも本人にも見えてくるというものだ。

 ユーザーとしては、こういったまさに自分の日々の健康生活や予防、治療などに直結するようなヘルスケア製品だからこそ、シロモノ家電のなかでも最も機能が古くなっては困るものだし、常に最新のソフトウェアにアップデートされていることは非常に価値があり重要だと感じた。当然、IoT化したからこそ実現でき、それは患者にとっても大きなメリットを生むことになるだろう。

 また、ここであらためて思い出して欲しいのが、フィリップスはトータルヘルスケア企業であり、2025年までに、年間30億人もの人々の生活をイノベーションを通じて向上させるため、一連のヘルスケアプロセスを掲げている点だ。①健康な生活→②予防→③診断→④治療→⑤ホームケアをすべて繋げるという目標に、この2016年、いよいよアクセルを踏み込んだように思える。しかも、それが老若男女すべてに向けての製品をIoT化した現実を見せつけられ、まさに“ゆりかごから墓場まで”すべてのライフスタイルをデータ化する勢いだ。

 ビジネス的な視点で分析すると、このヘルスケア製品の総IoT化の流れは、すなわち、すべての世代に対してヘルスケアを媒介として、ビッグデータを集約するビジネスに本腰を入れることを宣言した証と捉えても間違いないだろう。

 多くの人が健康的な生活を送るのにフィリップスのIoT製品が密接に役立つことで、新たな予防策に役立つような製品開発に繋げたり、今後、医者が薬のようにIoT製品自体を処方することで、そこからより強大なビッグデータが得られ、新たな医療サービスを生み出すことが、同社の将来に大きな収益を集められることを理解しているからだろう。すでに、新たなヘルスケアビジネスを創造するために動き出しているのだ。

  
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