世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月11日

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 比の中国との関係で最も重要なのはスカボロー礁の問題です。スカボローは比の排他的経済水域内にありますが、国際仲裁裁判所は7月、中国は比の漁業に対する干渉や人工島の建設で比の排他的水域における比の主権を犯している、との判断を下しました。裁判所はさらに、中国はスカボロー礁などで、海洋の環境を保護し維持するという海洋法の下での義務に違反している、と言っています。ただし、スカボローをはじめ南シナ海の島の所属については判断しないとしています。

どこまでが本心か?

 中国は仲裁裁判所の判断は無視する方針であり、事実G20サミットの前夜スカボロー礁に大船団を展開し始めました。これに対するドゥテルテ大統領の対応が懸念されます。ドゥテルテは心情的には親中・反米と言われます。南シナ海問題については中国と話し合う、と言っていますが、どこまで真剣に考慮しているかは疑わしいです。そもそも南シナ海問題はドゥテルテにとって優先度の高い問題ではないようです。7月25日の施政方針演説の主な内容は犯罪、麻薬撲滅、内戦についての和平プロセス、連邦制の導入と言った国内問題であり、南シナ海問題についてはごく簡単に触れたにとどまりました。その触れ方も「仲裁裁判の判決を強く支持し、尊重する」というものです。また、比国防省が9月4日、中国のスカボロー礁付近での中国の新たな船団の写真を公開したことは、ドゥテルテが、中国と話し合うと言っているものの、中国と妥協するつもりはないことを示唆しています。

 一方、米国との関係では、大統領選挙後、「長年の同盟国である米国に依存することは無い」との持論を繰り返していると報じられています。また、人権問題をめぐりオバマ大統領を侮辱するような発言をして物議をかもしましたが、これについてはすぐスポークスマンを通じて遺憾の意を表しています。

 ドゥテルテの米国と距離を置くような発言が、どこまで彼の本心を表しているのか分かりません。ドゥテルテは、麻薬撲滅対策で2000人の容疑者を殺害するなど、強引さが目立ち、今後も米国が人権の見地から批判を強め、米比関係が緊張することは考えられます。その結果万が一にも米比同盟関係にひびが入ることの無いよう、注視する必要があります。日本も比の戦略的重要性を考慮し、ドゥテルテ大統領と緊密な関係を構築するよう努め、外交面でドゥテルテ大統領の持つ一抹の不安の解消に貢献すべきでしょう。

  
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