2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2016年10月11日

レームダック政権に見切り

 オバマ政権はAQAPとIS分派を無人機と地上のスパイ網で常時監視し、特定できた時点で攻撃を繰り返している。無人機はサウジ国内の秘密基地とアフリカの角のジブチを基地としているが、政権は特にAQAPが対米テロの能力を依然有しているとしてその動きに神経をとがらしている。

 AQAPはアルカイダの中で現在も最強の組織。これまでにも米国行きの航空機に爆発物を仕掛けるなど米国への攻撃をあきらめていない。昨年、パリで起きた週間新聞社シャルリエブドの襲撃では犯行声明を出した。これに対して米国は6月、最高指導者のナシル・ウハイシを無人機攻撃で殺害するなど攻撃の手を緩めていない。

 内戦の混乱に乗じて勢力拡大を図っているのはIS分派も同様だ。8月末、フーシ派から追われたイエメン政府側のアデンの軍事訓練施設に自爆車を突っ込ませ、70人以上を殺害した。その後も散発的に自爆テロを引き起こすなど活動を活発化させている。

 米国はこうした過激派を封じ込めるためにも内戦の鎮静化を望んでいるが、サウジはオバマ政権の説得に耳を貸そうとしていない。むしろ残りの任期が4ヶ月を切ったオバマ氏のレームダック政権にはとっくに見切りをつけ、次期政権との関係を重視しているフシがある。オバマ政権はこうしたサウジの“暴走”に苦り切っている。

 しかし米国にとってサウジの比重は大きく低下。新政権になっても「ペルシャ湾の死活的な権益を守る」(カーター・ドクトリン)とされたかつての戦略的価値はサウジにはない。米議会でこのほど、米中枢同時テロ9・11関連で、サウジに損害賠償を請求できる法案が成立したのもこうした背景がある。

 地位が低下した理由は米国内でシェール革命が起き、サウジの石油を当てにしなくても自前でエネルギーをまかなえるようになったからだ。宿敵イランの影に脅えるサウジの暴走気味のイエメン空爆はそうした戦略的価値の低下に対する焦りを象徴するものとも言えそうだ。

  
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