2024年4月20日(土)

この熱き人々

2016年10月20日

 リアルではなくファンタジーで、もう一度生きる道を照らす光をほのかに感じさせる作品と比べて、今秋公開された『少女』は、閉鎖的な高校生活の中で、「人が死ぬ瞬間を見たい」と願った少女2人が、〝自分たちにとっての生と死〟というリアルを求める物語である。

 「17歳。自分もかつてそうだったけど、何も見えていないのに自我が強くて自分勝手な時期を生きる主人公を映画で描きたかったんです。原作を読んだ時から映画にしたいと思ってました。できるかできないかは絵が浮かぶかどうかなんですが、最後に主人公ふたりが疾走するシーンが自分の中でとても鮮やかに浮かんで、できる!と感じました」

 小説では公園だが、映画では陽光を受けて輝く海辺に設定されている。子どもの時のキラキラしたシーンと対になって、友情を取り戻したふたりが高台へと走っていくラスト。

 「自分の暮らしていた町を俯瞰(ふかん)することで、チマチマと考えていた世界の小ささに気づくシーンは大事だったので、光を待ってリテイクしました。でも、本当のラストでは、彼女たちの満面の笑みはアップでは撮りませんでした」

 何を感じるかはすべて観る人に委ねているから、といたずらっぽく笑う三島は、すでに来年公開予定の『幼子われらに生まれ』の撮影を終え、今は編集作業に追われる忙しい毎日だという。

 もうボクシングジムでサンドバッグに思いを叩きつける必要はなくなったと思いきや、「まだまだ、全然、行きたいです!」という答えが噴き出すように返ってきた。

『少女』(10月8日全国ロードショー)の撮影現場

(写真・岡本隆史)

みしま ゆきこ/1969年、大阪府生まれ。大学卒業後NHKに入局、ドキュメンタリー番組などを手掛ける。2003年退局、テレビドラマの演出などを経て09年に『刺青 匂ひ月のごとく』で映画監督デビュー。代表作に『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』『繕い裁つ人』などがある。

  
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◆「ひととき」2016年10月号より


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