世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月21日

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 9月19日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラックマンが、南シナ海での米比共同パトロールを中止するとのフィリピン大統領の発言やTPPの米議会承認が不透明になってきたことを受け、米国のアジア重視戦略は沈みかけていると述べています。論旨は次の通りです。

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南シナ海を中国の湖にする

 フィリピンのドゥテルテ大統領は、米比共同海洋パトロールの中止を発表し、また、「中国は今や力を持ち当該地域で軍事的優越性を持っている」と述べた。これは米政府を困らせるだろう。オバマは、米国がアジア太平洋で圧倒的な軍事力を保有することを確約してきた。2011年の演説で明言し、その後、海軍のアジア配備を強化するとともに東アジアを定期的に訪問した。
ドゥテルテは、米国の覇権に挑戦した格好だが、同氏の米中軍事バランスの評価は疑わしい。米国は11隻の空母を保有し、中国は1隻しか持っていない。

 ここ1年、中国は南シナ海で人工島を建設し、南シナ海の9割に対する領有権主張を強固にしようとした。米国は中国の行動を直接止めることはできなかったが、軍事化する「島」の水域に艦船を航行させることにより中国の主張を拒否する立場を明らかにした。

 オバマ政権は南シナ海の重要性を強調してきた。ヒラリーは2011年の寄稿文で世界の物流の半分が南シナ海を通ると述べた。米国は中国が南シナ海を「中国の湖」にしようとしているのではないかと恐れている。

 米国は、南シナ海は国際法の問題であり権力闘争ではないと指摘してきたが、それは正しい。この法の支配戦略の中でフィリピンは極めて重要だった。7月にフィリピンは国際仲裁裁判で勝訴した。中国には大きな敗北だった。しかしドゥテルテが公然とオバマを侮辱し米国との共同パトロールを縮小するのであれば、オバマもフィリピンの法的権利を擁護し難くなる。日本は、米国と海洋パトロールをすると発表したが、日本との連携はこの問題が国際法の問題というよりも中国との権力闘争だとの印象を強めることになる。

 さらにTPPの問題がある。安倍総理は米議会でTPPの長期的な戦略的価値は莫大なものがあると述べた。安倍とオバマの思い入れにも拘らずTPPは救われないようだ。トランプもクリントンも反対している。オバマはそれでも任期中に議会を通そうとするだろうが、目下承認の可能性は小さい。

 TPPが失敗すればアジアの同盟国はひどく失望するだろう。最近訪米したシンガポールのリー・シェンロン首相は、TPPは米国の信頼性と本気度のリトマス試験紙だと述べた。
今、米国では長期的な思考は不可能だ。オバマは自分の最重要政策であるアジア重視戦略が太平洋の波間に沈むのを見ながら任期を終えねばならないという悲しい状況になっている。

出 典:Gideon Rachman‘America’s Pacific pivot is sinking’(Financial Times、September 19, http://www.ft.com/cms/s/0/12473188-7db4-11e6-8e50-8ec15fb462f4.html?siteedition=intl#axzz4L2NV3CK

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