学びなおしのリスク論

2016年10月14日

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漆原次郎 (うるしはら・じろう)

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム修了。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』『日産驚異の会議』『宇宙飛行士になるには』など。

まれにしか起こらない副反応でも
実際のリスクより高い印象を与えてしまいかねない

 わが子にワクチンを接種させまいとする親など「反ワクチン派」が各国におり、高い接種率を実現する上で課題となっている。日本でも少数ではあるがこのような活動が展開されており、それを見て不安や疑問を持つ保護者が一定数いることも、高い接種率を実現するうえでは課題となる。「おもに、ワクチン接種で副反応が出るのがいや、と言う人たちです」と堀氏は言う。

 厚生労働省によると、麻疹予防接種の副反応として、接種から2週間以内に発熱を認める人は接種を受けた人のうち13パーセント、1週間前後で発しんを認める人の率は数パーセント、アレルギー反応としてじんま疹を認める人の率は約3パーセント、発熱に伴うけいれんについては約0.3パーセント、脳炎・脳症については100万~150万人に1人以下、率にして0.0000006〜0.000001パーセントという。

 重篤な症状の副反応ほどリスクは微小となるが、それでも「反ワクチン派」が生じるのは、マスメディアの伝え方に問題があるからと堀氏は考える。

 「残念ながら一定数の赤ちゃんは、原因がわからずに死亡します。解剖をして原因が窒息や心臓の問題とわかることもある。けれども、その赤ちゃんがワクチン接種1週間後に死んだとすると、そのことをメディアはワクチン接種『で』というニュアンスで伝えることがある。恐怖は記事になりやすい」

 マスメディアにとって、まれにしか起こらない問題のニュース価値は高い。逆に、社会全体でうまくいっているような物事はニュースにならない。社会に出るのは、ワクチン接種が感染予防に奏功しているといった記事でなく、副反応で障害が起きたといった記事だ。実際のリスクより高いリスクの印象をあたえかねない。

 「ほかのみんなが接種してくれるなら、わが子には接種させませんという保護者が増えると、ウイルスが入ってきたときの制御がしづらくなります」

世界で進む予防接種の義務化

 日本の予防接種法では、人から人にうつる感染症や、重症化のおそれのある感染症に対し、国民は「予防接種を受けるように努めなければならない」としている。これは「努力義務」とよばれる。1994年までは「義務接種」だったが、予防接種被害の集団訴訟で国に損害賠償の支払いを命ずる判決が下されたことを受け、「努力義務」にレベルダウンした経緯がある。

 一方、海外では予防接種を義務としたり、なかば強権的に接種を課すところもある。米カリフォルニア州では2016年7月から、保護者の宗教や信条を理由とした児童・生徒への予防接種の免除が廃止され、健康上の理由を除き接種は義務となった。またオーストラリアでは2016年から、ポリオや破傷風などの予防接種を拒否した家族に児童手当を原則的に支給しない制度を開始させた。予防接種の義務化は世界で進んでいる。

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