2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2016年10月27日

――招待状が届かないのにはどんな理由があるのでしょうか?

小川:例えば、ある国のオリンピック委員会内が、オリンピック憲章に相応しくないと判断されれば招待されないことはあり得ます。

 実際にリオオリンピックでも、クウェートは政府による同国オリンピック委員会への干渉により、クウェート・オリンピック委員会の資格停止処分は解除されず、選手は個人参加という形になりました。

 ただ、その国で内戦や紛争が起きていたとしても招致状を送らない理由にはなりません。紛争や内戦はその国のオリンピック委員会が引き起こしているわけではありませんからね。

 また、オリンピック憲章ではいかなる差別の禁止の他にも、選手間の競争であり国家間の競争ではないことや、広告、デモンストレーション、プロパガンダなどを許可していません。他のスポーツ大会を見ると競技会場のあちらこちらに企業スポンサーの看板などが見られますが、オリンピックの場合見当たらないのはそのためです。許可されているのは、例えば水泳選手ならば水着やキャップに元から付いているメーカーのロゴのみで、それ以外のメーカーロゴを入れるのは禁止されています。

――ただ、会場の外ではコカ・コーラなどのメーカーのロゴを目にすることはありますね。

小川:それはTOP(The Olympic Programme、ワールドワイドオリンピックパートナーとも)と呼ばれる企業スポンサーで、そういったスポンサーを付けないと、200カ国近い規模の国々が参加する大会を開催することは来ません。企業からの収入なしで運営しようとすれば、選手一人当たり数百万円にも及ぶ参加費を徴収して、往復の交通費も選手が自ら払わなければならなくなり、貧しい国の選手は参加出来なくなってしまうのではないか、と思われます。ですから、オリンピックはある部分では偽善と言えば偽善なんです。

――また、大会は選手間の競争であり、国家間の競争ではないということですが、テレビ番組などで国別メダルランキングなどを報道することは問題ないのでしょうか?

小川:オリンピック憲章では組織委員会などがメダルランキングを作成することを禁じていますが、メディアが報道する限りは問題ないと思います。一般的な興味として、国別メダルランキングを作ると日本は何番目になるのかという視聴者の関心もあると思いますしね。

 現在のオリンピックは、主催はIOCで、実際の開催に当たっては開催都市とその組織委員会が主催者であり、特に近年の夏のオリンピックでは開催都市がある国の政府が財政保証を事実上することになっていますから、むしろ主催者側になる開催都市、組織委員会、政府がどのようにオリンピックを捉えているかが問題となります。そう考えると、日本の組織委員会や政府はオリンピック憲章をちゃんと読んでいないか、読んでいたとしても、あまり理解していないんだなという印象ですね。


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