2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月2日

 メイ首相は演説で次のことを述べました。
 (1)条約50条を来年3月末までに発動する。

 (2)条約50条の発動は政府の責任において行う。国民投票によって国民の意思は確定しており、議会の関与の余地はない。

 (3)離脱交渉も政府の責任において英国全体として行う。但し、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドと協議は行う。

 (4)間もなく議会にGreat Repeal Billと呼ぶ法案を提出する。これにより、EU離脱の時点で、1972年の欧州共同体法を廃止し、EUの法体系を英国法に転換する。議会は時間をかけていずれのEU法を維持、改定、廃止するかを検討出来ることになる。

 (5)EUとは最善の新たな合意を交渉する。それは緊密な関係にある友好国や同盟国が享受する成熟した協力的な関係を反映するものである。英国企業には単一市場で貿易し行動する最大限の自由を与えたい。しかし、移民のコントロールを放棄することはない。

 来年3月末までに条約50条を発動するという決定は、随分引き延ばしたという印象です。しかし、これが限度だったのでしょう。保守党の離脱強硬派の策動を封じ込める必要があったという報道がありますが、恐らくそういう事情なのでしょう。

 メイ首相はEUとは最善の新たな合意を交渉するといいます。それはEU加盟国であった時の関係に類するものではありません。ノルウェー型でもなければスイス型でもありません。独立した主権的な英国とEUの関係だといいます。その実質は判りません。この社説はメイ首相が移民の管理の必要性を強調したとして、単一市場にとどまらない、EUとは明確に決別する、と示唆したとの解釈を述べています。英国のメディアの多くが、メイ首相が移民問題を重視する強硬姿勢に傾いたとの解釈を報じているようです。しかし、演説を読んでみる限り、必ずしもそういう印象は受けません。

 単一市場にとどまると表現するかどうかはともかく、メイ首相が言ったことは、単一市場への最大限自由なアクセスを移民のコントロールを犠牲にすることなく追求するということだと思います。英国にユニークなEUとの関係を築きたいということです。この社説も認めるように、メイ首相は多くの選択肢を残しています。

 現段階ではこうとしかいいようがないことを演説は述べたとも言えます。どう転ぶかは交渉が始まらないと判りません。社説は言外に経済的影響を軽視しないよう促しているのだと思います。

  
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