BBC News

2016年10月31日

ブライアン・ウィーラー、ワシントン

米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)的な大逆転を実現してみせると約束している。本当にできるのだろうか?

英国が欧州連合(EU)を去るのか留まるのか国民投票で決めた6月23日、何百万もの英国人は夜遅くにテレビを消して、何はともあれひとまず現状維持だろうと確信して床に就いた。

翌朝目覚めた英国人が目にしたのは、イギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首が興奮する支持者を前に「独立した英国の夜明けだ」と宣言している姿だった。

米国民も11月9日、同じような朝を迎えるのだろうか?

世論調査はノーと……

一見すると、あり得なさそうだ。トランプ氏はほとんどの全米世論調査で、民主党候補のヒラリー・クリントン氏に3~10ポイントほど水をあけられてきた。

しかしそれは、28日夜に米連邦捜査局(FBI)がクリントン氏のメール問題に関する新資料を調べていると発表する前のことだった。このニュースが、有権者にどれほど影響するのかは、これから明らかになる。

トランプ氏と支援者たちは、ブレグジットについて世論調査は間違っていたと主張する。しかし実際にはそれよりいささか複雑だったのだ。

実を言えば、各種世論調査が最終段階で一斉に間違って「残留」に振れた以外、調査結果はずっとバラバラだった。「離脱」が優勢になることもあれば、「残留」が勝ることもあった。

興味深かったのはインターネットでの調査だ。わずかな例外を除けば、インターネット上の世論調査は国民投票に向けて一貫して「離脱」を予測していた。それに対して電話での調査は「残留」勝利を予測していた。

これに対して政界とメディアの主流派は常に、有権者の本能的な警戒心が最後には働いて、現状維持を選ぶだろうと決めつけていた。

政界やメディアの意見よりも英国で常に重視されるのが、ブックメーカーだが、ブレグジットについてはブックメーカー各社も同意見だった。

ブレグジット推進派の主な論客たちも、勝てる見込みはなさそうだと意気消沈していた。ファラージ氏などは6月23日の投票締め切り直前に、テレビ局記者に「残留派がギリギリで勝つみたいだ」と話していたのだ。

……けれども世論調査の信頼性が揺らいでしまった

ブレグジットの結果、世論調査業界の信用は大打撃を受けた。2015年の英国総選挙も、イスラエル総選挙も、2016年の民主党予備選の一部でも、世論調査は間違い続けてきたので。調査各社はまだ、どうすれば問題を解決できるのか分からずにいる。

英国でも米国でも、調査会社は有権者の動向を正確に把握できるサンプルがどんどん捉えにくくなり、苦労している。

かつては無作為抽出した有線の電話番号を使えばそれでよかったが、携帯端末の急増と、調査への参加を嫌がる人の急増によって、高品質の世論調査は困難かつコストのかかる取り組みになってきた。

米国の法律は自動ダイヤル装置の使用を禁止している。このため、調査担当者は携帯電話の番号を手入力しなくてはならない。わずか1000人から有効回答を得るために、無作為抽出された2万もの電話番号にかけなくてはならないのは、珍しいことではない。

資金に限りのある報道機関は、ずっと安価なインターネット調査を使うようになっている。インターネット世論調査は不正確だと言う人もいるが、ブレグジットについては伝統的な電話調査よりも真実に近かったように見える。

米国の調査会社IBD/TIPPは、携帯端末使用者の割合を異例なほど高くとって調査を実施し、他社より正確だと主張している。そして同社は、クリントン優勢へと転じる前は他社よりも、接戦になると分析していた。

IBD/TIPP社の調査を実施するテクノメトリカ・マーケット・インテリジェンスのラガバン・マユール社長は最近、投票する人しない人を予測するためにほとんどの調査会社が使う、「投票する可能性の高い有権者」モデルについて、ブレグジット投票がその限界を示したという見解を示した。

マユール氏はさらに、有権者が調査に本当のことを言わないという伝統的な問題も、ブレグジットの予測に影響したかもしれないと強調。「トランプ氏に入れると言うとマスコミその他のエリートに馬鹿にされるからという理由で、本当はトランプ氏支持でもそうは答えていない可能性もある」。

調査大手のギャラップ社は、もはやお手上げだと表明してしまった。前回の大統領選で間違った経験から、今回は勝者を予測しないと発表したギャラップは、今回は個別の政策課題について動向を調査している。

いつも投票しない人が投票所に?

世論調査の手法に関するあらゆる詮索をすべて横に置くと、ブレグジット投票については逃れがたい事実がひとつ残る。

何十年も投票していなかった、あるいは一度も投票したことのない約280万人、全有権者の6%に相当する人たちが、6月23日に英国各地の投票所を訪れたのだ。そしてそのほとんど全員が、EU離脱に票を入れた。

「残留」派の運動責任者だったサー・クレイグ・オリバーは近著で「我々を確実に破るには、それで十分だった。通常投票しない人たちの懸念を理解するためにもっと努力すべきだったし、EU離脱がどうしてその人たちにとって良くないか説得すべきだった」と書いている。

いつも投票しない有権者は国民投票でも投票しないという専門家の意見を、残留派は鵜呑みにしてしまったのだという。

しかし専門家たちは間違っていた。

米大統領選でも同じ展開になれば、トランプ氏のホワイトハウス入りはかなりあり得る。特に2012年にオバマ氏に投票した民主党支持者たちが、あの時ほどの規模で投票所に行かなかったら。

クリントン陣営と同様、ブレグジットの「残留」派も、見知らぬ世界に飛び込むのは危険だと強く警告し続けた。

しかし「残留」派は、労働者階級が多い地域がいかに深く怒っているか、予想していなかった。自己中心的な政界エリートは自分たち労働者が移民やグローバリゼーションをどう思っているか、ずっと無視し続けているという労働者たちの怒りは、「残留」派にとって予想外のものだった。

国民投票と選挙は違う

ブレグジット支持者の一部は(一部のトランプ支持者と同様)、国の権力者が投票結果を仕組んでいるに違いないと確信していた。当局が、投票を消しゴムで修正するかもしれないから、投票所にはペンを持っていくようソーシャルメディアで呼びかける人たちもいた。

しかし国民投票は総選挙とかなり性質が違う。一部の「激戦地区」や接戦の行方で、全体の結果が決まるわけではない。国民投票では一票の重みは一律なのだ。

投票率においても、国民投票と選挙は異なる。ブレグジット国民投票の投票率は実に72%で、両候補の不人気ぶりからしても大統領選で予想される投票率を大きく上回っていた。

しかし今回の大統領選は実に異例ずくめだ。それだけに、うかつな予測は危険だ。

「安泰だと思わない方がいい」

2012年の大統領選で全50州の結果をすべて正確に予測した統計学者でブログ「FiveThirtyEight」主催者のネイト・シルバー氏は、他の専門家よりもトランプ氏は好調だとみている。

シルバー氏は24日付の記事で、多くの調査専門家は不確実性を十分に統計モデルに織り込んでいないと指摘。特に二大政党以外の候補者の人気や、まだ誰に入れるか決めていない有権者の多さを考慮する必要があると強調する。

シルバー氏はそれでも「たぶん」クリントン氏が次の米大統領になるだろうが、「もしトランプ氏の支持者ならまだあきらめない方がいいし、もしクリントン氏に入れるなら、もう安泰だなんて思わない方がいい」と書いている。

わらにもすがりたい思いで必死の政治家というのは伝統的に、自分がいかに不人気か証拠を突きつけられると、本当に大事な調査結果は選挙本番の結果だけだなどとぶつぶつ口にするものだ。

今回は本当に、その通りになるのかもしれない。

<クリントン氏とトランプ氏の最新支持率。BBCが示す両候補の支持率は直近5種類の全米調査の中央値>

(英語記事 Can Trump pull off a Brexit-style upset?

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37819864

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