BBC News

2016年11月3日

アンソニー・ザーチャー、BBCニュース北米担当記者

この米大統領選が始まったのはもう遠い昔のことのように思えるが、当時はドナルド・トランプ氏のように異例づくめの候補ならいつもの選挙地図の動向を大きく揺さぶるかもしれないとかなり言われていた。

たとえば、通商協定に反対しているのだから、中西部の大部分が動くかもしれないと。あるいは、地元ニューヨーク州や、北東部ニューイングランド地方の白人労働者の間でも支持されるかもしれないと。

希望に燃えるトランプ陣営は、民主党の牙城カリフォルニア州さえ、期待をこめてチラチラ見ていた。

しかし時がたつにつれて、選挙戦は近年の戦いと同じ、相変わらずの激戦州に集約されていくように見えた。オハイオ、フロリダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、ペンシルベニアの各州だ。

バージニアとコロラドはクリントン陣営にさらにしっかりと接近し、アイオワ州は共和党寄りに傾いた。

ドナルド・トランプ氏の頭の中

【寄稿】揺らがない人たち――トランプ氏に忠誠を誓う支持者とは

ヒラリー・クリントン氏を深く暗く憎む人たちとは

となると、いったいトランプ氏は1日夜、ウィスコンシン州オークレアで何をしていたのか? そして今週初めには確実に青い(民主党支持の)州だと思われているミシガンとニューメキシコにいたが、それはいったいぜんたい何のためか?

トランプ氏の「青い州作戦」とでも呼ぼうか。クリントン氏が「安全な州」とされる地域で、もしかして隙がないか、最後になって試してみているのだろうか。あるいは、「壁にスパゲッティをぶん投げる」作戦と言う方がふさわしいのか。つまり、とりあえず手当たり次第に何でも放ってみて、何かくっつけば(効果があれば)御の字という目論見か。

大統領を決める選挙人地図が示す冷厳とした現実に、トランプ陣営はもちろん気づいているはずだ。

誰もが接戦州だと認める州(オハイオ、フロリダ、ノースカロライナ、アイオワ、アリゾナ、メインの半分)すべてでトランプ氏が勝ったとしても、トランプ氏が獲得する選挙人は268人。ホワイトハウス入りに必要な270人には2人足りない。

これぞまさにトランプ氏が直面している「クリントン・ファイヤーウォール」だ。トランプ氏が勝つにはペンシルベニアとニューハンプシャーのどちらかを抑えるか(両陣営とも両州に注力してきたが、どちらも盤石なクリントン支持州だ)、あるいは選挙人包囲網を別の方法で迂回しなくてはならない。

だからこそ、トランプ陣営はウィスコンシン、ニューメキシコ、ミシガン各州を含むテレビCMキャンペーンに2500万ドルを投入しているのだ。そしてトランプ氏自身も4月以来初めて、ウィスコンシン入りして、聴衆3000人で満員御礼の会場を前に(会場の外にはさらに1000人いた)、投票日目前ならではの結びの言葉にも聞こえる演説をした。

トランプ氏はいつものように、民主党候補ヒラリー・クリントン氏を「犯罪者」と呼び、オバマ政権の医療保険改革(オバマケア)や通商政策を罵倒した。

しかしこの時の演説はいつもと違い、前向きなメッセージで終わった。

「だめな政治家たちを信じるのを止めて、お互いとこの偉大な国を信じるようにすれば、それで十分だ」とトランプ氏は、歓声を上げる聴衆の前に呼びかけた。

この前向きなッセージが、民主党支持だが自分たちはないがしろにされていると感じている人たちや浮動票層に響けば、クリントン地盤の「青い州」を獲得できるかもしれないと、期待するかのように。

「これは、手の届かない夢物語じゃない。無理だと言われても信じないように。未来は夢見る人たちのものです、冷笑する連中のものじゃない」

トランプ氏が元気を取り戻したように聞こえるとするなら、1週間ほど前には多くの評論家が「もう終わりだ」と判断してトランプ陣営の追悼文を書いていたからだ。

支持率は低迷し、トランプ氏に巻き込まれてどれだけの共和党議員候補が落選するのかという話に論点は移っていた。

しかしその翌週には朗報が続いた(あるいはクリントン氏にとっては、困ったニュースが)。オバマケアが管理する一部の健康保険料が値上がりした。クリントン陣営からハッキングされたメールの漏洩が続いた。そして何よりも週の最後には、連邦捜査局(FBI)のジェイムズ・コーミー長官が、クリントン氏の私用メールサーバー問題について捜査を再開すると、わかりにくい書簡を連邦議会に送ったのだ。

世論調査結果が信用できるなら、トランプ陣営は息を吹き返したようだ。全国調査でクリントン氏の差を縮めつつあるし、いくつかの激戦州では逆転した。

ウィスコンシン州オークレアでは、同州政界の重鎮たちがトランプ氏と共に登壇した。スコット・ウォーカー知事、ロン・ジョンソン上院議員(再選をかけてラス・ファインゴールド元議員と接戦中)、ショーン・ダフィー下院議員、そしてラインス・プリーバス共和党全国委員長という顔ぶれだった。

つまり、選挙の最終盤に共和党主流派が自分たちの党候補に背を向けるなどという憶測は、単なる憶測に過ぎなかったことが分かる。

この選挙は最後の最後まで分からないまま投票日を迎えるのだろう。

ウィスコンシンの大学が3日に公表した最新世論調査によると、クリントン氏は6ポイント、リードしている。しかしオークレアの支援者集会の会場外では、ウィスコンシンが結果を左右するかもしれないという展望に、トランプ支持者たちが盛り上がっていた。

幼い息子を連れてやってきたシャノン・オルソンさんは「これまで以上に支持が集まっていると思う」と話した。親子は2人して、トランプ氏的なダークスーツに赤いネクタイという格好をしていた。

共和党のウォーカー知事が知事選で連勝しているのだから、ウィスコンシンでトランプ氏は十分に勝てるとオルソンさんは言う。

「共和党に入れる人たちがここにはいる。大事な選挙となれば、今までとは違う結果になるかもしれない」

通商協定を見直し国内の製造業を復活させるというトランプ氏の主張は、ウィスコンシン州の有権者にアピールする内容だと、オルソンさんはみている。

集会に参加する支持者がいる一方で、警察が設けた規制線の反対側には、トランプ氏に抗議する人たちが約50人集まっていた。そのうちの1人のベス・ミュールさんは、まったく違う意見だ。

「スコット・ウォーカーは例外中の例外です。みんな正気を取り戻しつつある。選挙当日には私たちが勝つと思う」

トランプ氏を信じる人たちが会場に次々と入っていく様子を凝視しながら、ミュールさんはプラカードを頭上に掲げた。

「自分が抑えられない人はしょうがないけど、これはおかしいって分かってるべき人も大勢いるでしょ!」というメッセージだった。

数メートル先にいた教師のスティーブ・アンマスさんは、もう少し慎重だった。ウィスコンシンでは1984年を最後に共和党の大統領候補は勝っていないのだし、そのウィスコンシンをトランプ氏が頼みにしているなら、それは問題だろうとアンマスさんは指摘したものの、「でも……」と言ってから、長いこと押し黙ってしまった。

「でも、金曜日のあれはちょっと、どうしようと思っちゃった」 クリントン氏のメール問題再燃のことだ。

「接戦になるよ」

心配している?

「もう1年くらいずっと緊張してる。本当に」

(英語記事 How Trump believes he can still win

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37856669

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