2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月9日

 南シナ海については、蔡氏は、7月の国際裁判を中国と共に拒否し、地域の多くの国々を驚かせた。台湾の主張は表面上は中国の主張と一致しているが、蔡氏は、台湾の決定の背景の一つは不公平性にあると説明する。すなわち、裁定が台湾を中国の一部としている点である。蔡氏は「我々は、利害関係者として、他の権利主張国同様、交渉への参加を認められるべきである」と言っている。

 経済については、繁栄のためには、台湾は、イノベーションを促進し、貿易と投資を中国から東南アジアに移さねばならない、と言う。経済成長率は1.2%と見込まれるが、蔡氏が言うには、同氏が就任する何年も前から減速している。

 「我々は、台湾が他の市場や経済に拡大する意図を政治化するつもりはない」と蔡氏は述べた。中国の指導者が台湾の他国との協定を阻止しようとするかどうか尋ねられると、蔡氏は「彼らは多くの決定が政治的意図を持っていないことを忘れがちである」と答えた。

 蔡氏は、習近平と会談する用意はあるが、それは前提条件なしでなければならない、と言う。「意義のある対話の前に政治的前提条件を付けるのが中国の長年の慣行だが、これは中台関係の発展にとり障害であると思う」と述べている。

出典:Charles Hutzler & Jenny W. Hsu,‘China Can’t Make Taiwan ‘Bow to Pressure,’ Island’s Leader Says’(Wall Street Journal, October 4, 2016)
http://www.wsj.com/articles/china-cant-make-taiwan-bow-to-pressure-islands-leader-says-1475616782

 上記記事は、蔡英文が「台湾は中国の圧力に屈しない」と述べた背景を解説しています。これまでの蔡の発言内容は5月の就任式の際に述べたスピーチと基本的に変わっていません。つまり、台湾の「独立」について言及しないが、同時に、「92年コンセンサス(その核心は、台湾は中国の一部であるとする「一つの中国の原則」)」を受け入れず、中台関係の「現状を維持する」というものです。「現状維持」の中身は突き詰めてみれば曖昧なものではあるが、台湾が中国の支配下にないという点がその中心部分であるでしょう。現在の国際状況下においては、これが台湾にとって中台関係を律するぎりぎりの表現であるとするのが、蔡の主張です。

好んで中国と事を構えるわけではない

 同時に、蔡英文としては、決して自ら好んで中国との間で事を構えようとするものではないことを強調しています。圧力に屈するものではないとしつつも、「古い対抗の道に帰ることは希望していない」、「平和で安定的な関係を築きたい」とも述べ、慎重に言葉を選んでいます。

 その台湾の立場の基礎にあるのは、「台湾は民主国家であり、中国はこの事実を尊重すべきである」とするものです。そして、台湾政府としては、台湾人が選挙を通じて示した総意に反した行動をとることはできない、と述べています。

 以上に対し、中国の対応ぶりはどうでしょうか。「人民日報」系の「環球時報」は最近の社説の中で、蔡政権に対する「観察期間」はもはや過ぎたとしつつ、「92年コンセンサス」を認めない限り、台湾当局に圧力をかけざるを得ない、と恫喝しています。


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