2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2016年11月7日

トルコはどう出るのか

 米国の描いた絵が完成するには問題が山積している。まずは地域大国トルコの存在だ。トルコはYPGの勢力拡大が自国の反政府クルド人勢力を刺激するとして8月、軍をシリアに侵攻させ、長期駐留の構えを崩していない。当然、クルド人の勢力伸長につながりかねないラッカ解放作戦には反対だ。

 トルコのエルドアン大統領は先月、オバマ大統領に直接電話し、ラッカの解放作戦はトルコがやるので、YPGを作戦から除外するよう申し入れた。この要求にオバマ大統領がどう応えたかは明らかにされていないが、難色を示したのは間違いあるまい。米国はそもそも、トルコがラッカの制圧に本気で取り組むとは思っていない。軍に多大な損害が出るし、トルコ国内でISの報復テロが頻発するのをトルコが恐れているからだ。

 しかしトルコはこのまま静観しないだろう。トルコ軍のシリア侵攻後には、トルコ支援のシリア反体制派がYPGを攻撃し、一時交戦状態になった。YPG側が米国の説得で後退したため戦闘が終息したが、トルコはラッカの解放作戦にこうした配下の反体制派を使って参戦しようとするかもしれない。そうなれば、YPGとの戦闘が再燃し、解放作戦に重大な遅れが出るだろう。

 YPGは解放作戦開始の声明でも「トルコが介入しないよう」クギを刺し、警戒をあらわにした。米国は両者の緊張を回避するため6日に急きょ、ペンタゴンの制服組トップのジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長をトルコに派遣し、トルコの説得に躍起になっている。

 解放作戦に立ちはだかるのはトルコだけではない。ロシアの支援を受けるアサド政権も主権の侵害として反発しており、南方から作戦にちょっかいを出してくる恐れも十分にあり、事態がさらに複雑化しかねない。 

 こうしたトルコやアサド政権の動きなど不確定要素がなかったとしてもラッカの解放は簡単にはいかない。ISにとってモスルの陥落が視野に入る中、ラッカは最後の砦であり、「カリフ国」の象徴である。ラッカを死守するためなら化学兵器の使用や身の毛のよだつような残虐行為に出る懸念もある。ラッカ解放には想像を絶するような何かが起きる可能性がある。 

  
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