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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月18日

 ワシントン・ポスト紙が、プミポン国王の死去によりタイは不安定化し軍部独裁に陥る危険があるという社説を、10月15日付で、書いています。要旨は次の通りです。

不安定性のレシピ

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 10月13日のプミポン国王の死去に伴い、タイは喪に服すことになった。問題は政治的に分裂したこの国が不安定化し軍部独裁に沈むことになるのかどうかである。

 プミポン国王は国の近代化の70年にわたり王座にあり、貧しい人々のための献身の故に敬愛されてきた。少なくとも二回、国王は政治的危機を打開するため介入した。しかし、晩年はタクシン元首相のポピュリスト運動「赤シャツ」に対抗する軍や反民主主義勢力によって利用されるにまかせることとなった。

 プラユット首相が率いる軍事政権はこの8月、操作された国民投票によって権威主義的な憲法を国に押し付けた。そして、国王の死には一年間の服喪期間を命じ、テレビには国の作製になる番組のみを放映させることをもって応えた。2017年に予定される選挙は延期され、プラユット首相が独裁者として恒久的に政権を担うことを許容することになろうと専門家は予想する。

 これは不安定性のレシピである。国王の後継者が、奇行癖があり嫌われ者のプレーボーイであるワチラロンコン皇太子であるから尚更である。彼はその権限を行使して彼のプードルを空軍司令官に任命したことがある。軍事政権は国王継承の移行期を利用して彼等の権力を固めることが出来ると踏んだのかも知れない。しかし、皇太子は、国王となれば多額の資産とビジネスをコントロールすることとなり、軍の主要人事承認の権限を握ることとなるが、自身の野心を有するかも知れない。もし、皇太子が自身の存在を主張し始めると、政権の内部に混乱を惹起し、国民の反感を招きかねない。

 米国はタイを「主要な非NATO同盟国」に指定し、海軍間の協力、テロ対策での協力を進めて来たが、以上のような潜在的な問題に備えるため、二つのことをする必要がある。第一に、プラユット政権に対するペンタゴンの依存度を減らす措置を講じることにより、人権抑圧に対して発言し、本当の民主主義への移行を迫る自由を持つようにすることがそれである。

 第二に、オバマ政権はインドネシア、日本、豪州のようなアジアの他の民主主義国と政策を調整し、新国王の協力の有無を問わず政権が抑圧を強化するのであれば、共同戦線を張ることができるようにすべきである。タイは賢明で高潔な支配者の死を悼み喪に服している。悲しいかな、バンコクにはこの資質を備えた支配者は見当たらない。

出典:‘The death of a king’(Washington Post, October 15, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/the-death-of-a-king/2016/10/14/177b9482-923b-11e6-a6a3-d50061aa9fae_story.html


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