チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年3月17日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 そうした意味で、北朝鮮にも守るべき財産や経済発展の果実を味わせ、「失いたくない」との感覚を共有した上で話し合いたいというのが中国の次善の策だ。いつか来た道の「改革開放」を中国が北朝鮮に迫るのもこうした理由に起因する。

デノミに踏み切っても市民に混乱はない

 一方、昨年11月にデノミに踏み切った北朝鮮は、「改革開放」とは全く別の道を歩みながらも、独自路線によって経済発展への道筋を歩み始めている。

 日本のメディアは専ら、昨秋のデノミによって北朝鮮経済は大混乱に陥り、経済政策の担当者が謝罪したと報じられてきた。

 しかし北朝鮮に暮らす在日朝鮮人の一人は、「混乱と呼べるような混乱は見られない」という。実際、私自身も3月の上旬から4日間平壌を訪問し、限られた行動範囲のなかで見る限り、大混乱という現実には出会っていない。

 本来、デノミに加えて給料を据え置いたのであれば、それは実質的な賃金上昇を意味するのだから国民が困る話ではない。また日用品の多くを輸入に頼ってきた北朝鮮では、人々は外貨(ドルやユーロ)での買い物を余儀なくされ、その外貨を手に入れるため人々は、公定レートの約20倍という法外な闇市場でドルを入手しなければならなかったのである。

 その負担が軽減された上、レートも1ドル96ウォンに設定されたのだから、機能していれば輸入品に関して大幅な値下げが実施されたに等しいこととなり、市民が混乱する理由は薄くなるのだ。

 もし今回のデノミ関連で打撃を受けた者がいるとすれば、それは法外な交換レートで潤っていた者か外貨ショップの経営者、海外から外貨送金を受け取っていた者、ドルを貯め込んでいた者である。そうした人々が駆け込みで年末にかけてドルで買い物をしたため、「外貨ショップでは1カ月で1年分の売り上げがあった」(同前)というのだから店は品不足になる。これが混乱の正体かもしれない。

北朝鮮の若手の頭脳が花開く

 逆に北朝鮮は最近、自国の経済に自信をのぞかせている。

 「16年間工事がストップしていた柳京ホテルの工事が再開したのが象徴的です。ソ連崩壊以降稼働してなかった工場もどんどん復活しています。加えて昨年はコークスを使わずに製鉄が可能になる技術の確立やCNCと呼ばれる五軸旋盤の開発など北朝鮮産業にとって画期的な発明が相次いだ。最貧の時代の立て直しを教育から始めた北朝鮮は、数学オリンピックで毎年金メダルを取るような子供がたくさん育った。先日ミサイル技術で表彰された技術者もみな若い青年です。彼らの頭脳が花開く時を迎え自信を深めているのです」(日本の経済アナリスト)

 核とミサイルで敵に攻められない態勢を築き、その上で経済建設を進めるということが北朝鮮の描いてきた青写真だ。その意味では予定の行動なのだが、その北朝鮮は今年年初の労働新聞の社説で「今年の秋にすべての問題が解決する」と大胆に宣言しているのだ。

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