チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年11月11日

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西本紫乃 (にしもと・しの)

北海道大学大学院公共政策学連携研究部付属公共政策学研究センター研究員

1972年広島県生まれ、広島大学大学院博士後期課程単位満了退学、元外務省専門調査員(在中国日本国大使館)。著書『モノ言う中国人』(集英社新書、2011年)。

 日本でも多くの人が今回の米国大統領選挙の結果について、驚きをもって受け止めた。9日の選挙結果を受けて、私が意見を求めた中国系米国人の研究者は、「海外のメディアはトランプ氏を妖魔化しすぎていた」と指摘した。日本のメディアがトランプ氏のネガティブな面ばかりに焦点を当てていたわけではないと思う。しかし、日本が参考にする米国の情報はエリートたちによって語られたり編集されたものだ。「ヒラリー候補勝利」を確信していた王冲氏も、彼自身元中国の党機関誌系新聞の記者だし、頼っていた情報は米国の報道やそれを翻訳した中国国内の報道だ。

エリートと非エリートの乖離

 カルチュラル・スタディーズの専門家、北京大学の張頤武・教授は今回の大統領選挙でヒラリー候補より惨めに敗北したのは米国の主流メディアだ、と指摘している。正義の権化を自負する主流メディアは一も二もなくヒラリー氏を支持した。新聞やテレビなどの世論調査やコラムはヒラリー氏を支持したが、それは必ずしも本当の民意を反映していなかった。主流メディアが伝えることはすべて実態とかけ離れていたのだと述べている。

 今回のトランプ大統領の誕生から見えてきた事実、それはエリートと非エリートの接している情報がどんどん違うものになり、社会の上層部と下層部との社会の見方の溝がますます広がっているということだ。

 セルフメディアやソーシャルメディアの普及によって、エリートによって与えられる情報ではなく、非エリートが自分たちで情報を選択する。既存の権力に反発し、声なき声が顕在化する。同時に、単純で解りやすく、刺激的で感情を揺さぶる情報がより好まれるようになる。一見すると、それこそが本当の民主だと感じてしまいがちだが、大衆化した世論は論理よりも感情を優先し、強いリーダーを好むが飽きっぽく、感情は移ろいやすい。

 じつはこれはすでに、10年くらい前から中国で起きてきた社会現象でもある。右と左の大局の違いこそあれ、世界がだんだん中国化してきているかのかもしれない。

  
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