この熱き人々

2016年11月21日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

靴底に穴をあけるのは力のいる作業。すべてのパーツを一針一針手で縫い進めていく

 木型ができた段階で仮縫い。その際には、実際の靴のほかにプラスチックの透明な靴も作って、靴の中で足がどうなっているのかもチェックするのだという。パターンから革の裁断、ミリ単位で修正を重ねた木型に吊り込む作業、底との縫合、何層もの革を小さな木の杭で2層ずつ繋いだヒール。精密機械のような作業工程が続く。現在、工房では6人の職人が働いているが、木型から起こし、すべて手縫いのフルハンドだと月に5足作るのが精いっぱいだという。1足の値段は45万円からと高額だが、メンテナンスさえしっかりすれば一生付き合うこともできる。靴の中で足を再現してくれる最高の履き心地の靴である。高いか安いかは個人の価値観に関わってくるのだろう。

 「確かに靴の中で足を再現することが目標ですが、足の形そのものを単純に再現したらだれも履いてくれないんじゃないかな。人は靴に履き心地と同時に美しさも求めていますから。楽なだけじゃダメなんです。両立しにくいことを両立させる。そこに挑戦のし甲斐があるわけです」

手製靴を極めてみたい

完全な手作業で作られる〝フルハンド〟仕立てのビスポーク靴

 できあがったばかりの靴が目の前にある。姿だけでなく色遣いも思わず見とれるほどに美しい。紳士用のキャメルの靴はストラップ部分にごく細い緑の縁取りが施され、それと呼応するようにつま先部分の革の色を緑が感じられるようにわずかに落としている。技術に加えて、山口の美的なセンス、色彩感覚の鋭さに圧倒される。

 「大阪の工芸高校では日本画を勉強していたんです」

 山口の父親は、地蔵や狛犬など姿ものを得意とする石工だったという。でも山口は石よりも革に興味があって、高校卒業後に先輩に誘われて就職した先が京都の靴メーカー。

 「絵が描きたかった。でも絵じゃ食べていけないしね。靴の企画開発の仕事だったんですけど、社宅が余っていて1棟丸ごと貸してくれるというので、百号の絵が描けるっていうのも魅力だったんです」

 配属された部署では新作靴のデザインをして、プロトタイプを完成させ工場に引き継ぐ。そのために、デザインした靴を職人に教えてもらいながら自分で縫って形にしていく。

関連記事

新着記事

»もっと見る