安保激変

2016年11月11日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 次によくあげられる理由は「クリントンはオバマ大統領を当選に導いたコアリションを維持できなかった」というものである。2008年、2012年ともに、オバマ大統領が当選した背景には、民主党の固定票に加えて30歳以下の若い有権者の間の絶大な支持と、有色人種(特に黒人)の絶対的な支持、さらに、オバマ大統領が掲げた「変化」のメッセージに惹かれた無党派層の支持があった。クリントン氏は、予備選での苦戦が象徴するように、この3つの層をつなぎとめておくことができず、このことが予想外の敗北につながった、という分析である。確かに、USAトゥディをはじめ主要紙の出口調査の結果を見ると、30歳以下の若い有権者でクリントン氏に投票したのは50%強に過ぎない。9割近くがクリントン氏に投票した黒人以外の有色人種も、3割以上がクリントン氏に投票していない。しかも、クリントン氏が絶対的に有利だと思われた女性票も割れている。

クリントンに対する「うんざり感」

 実は、今回の選挙の結果の最大の理由は、投票率の低さにあるのではないか。最近のアメリカの政治で言われるのは、共和党、民主党、それぞれが持っている固定票は、それぞれ有権者全体2~3割程度に過ぎず、選挙の行方を左右するのは(1)無党派層の投票行動、(2)固定票層をどれだけ投票所に向かわせることができるか、ということである。特に、今回の大統領選挙は、トランプ氏、クリントン氏ともに有権者の「不人気度」が極めて高かったため、どれだけ、コアな支持者を民主、共和それぞれが投票所に向かわせることができるかが選挙の行方を左右するという指摘が早くからされていた。今年の選挙の結果は、共和党の方が、より多くのトランプ支持者を投票所に向かわせることに成功したことの反映だと捉えるのが一番、説明がつくのではないか。

 そしてそのような低い投票率を招いた最大の原因は、単純に言えばアメリカの有権者の大部分が「クリントン」という名前に感じていた「うんざり感」ではなかっただろうか。言い換えれば、「ヒラリー・クリントン」という人間が米国政治の表舞台に立ち続ける姿を見るのに大部分の有権者が飽きてしまった、ということだ。大統領夫人として1992年に知名度が全国区になってから20年あまり、ヒラリー・クリントンは常に、大統領夫人として、上院議員として、そしてオバマ政権の国務長官として、常にアメリカ政治の中枢を歩き続けていた。彼女の資質や能力の高さについて疑問に思う人はもはやいない。だが、20年、彼女の名前を聞き続けてきたアメリカの有権者のかなりの数の人は「もうクリントンはいいよ。他に誰かいないの」という気持ちを持ってしまったのではないだろうか。

 その「うんざり感」を感じさせる証左は、身近なところにもあった。私は、大統領選で激戦州と言われるバージニア州の北部に住んでいる。クリントン氏がバージニア州でかろうじて勝利した最大の理由は、私が住んでいる地域とその近郊が圧倒的にクリントン氏に票を投じたからなのだが、2008年、2012年の選挙ではオバマ大統領のプラカードを自宅の前庭に立てている家を近所でたくさん見かけた。ところが、今年は、クリントン支持のプラカードを庭に立てている家は近所でもほとんどみかけなかった。近所の人や、子供の学校の友達の父兄と話していても一番よく聞いた言葉は「トランプもクリントンもどちらも嫌。ゲイリー・ジョンソン(無所属で立候補した候補)がもう少し国際感覚があればよかったのに」だった。

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