BBC News

2016年11月14日

ハリー・ロウ、BBCニュース

米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選して、一部の国民に衝撃を与えた。驚愕するその様子は、英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利した時に残留派が味わった思いと一緒だ。EUの外にいる国の将来など想像もできなかった残留派だが、それでも何とか日々を過ごしてきた。ブレグジット(英国のEU離脱)を生き延びた残留派が今、大西洋の向こう側で打ちひしがれる米国人にサバイバルのコツを教えるとするなら、それはどういうものだろう。

「最初はとにかくショック状態だった。あんな結果になるとは思ってもみなかった」 6月の国民投票から一夜明けた朝を思い出しながら、ラビ・パラニサミさんはそう語る。

「そして次の瞬間、はっと悟った。自分が住んでいるのは進歩的で多民族で寛容で前向きな、外向きの国だと思っていたけれど、それはロンドンだけのことで、英国全体はそうじゃなかったんだと。あれは胸のざわつくような感覚だった」

しかし時間がたつにつれ、パラニサミさんはそのことを受け入れ始めた。

「喪失体験を受け入れる悲嘆プロセスと同じで、いくつかの段階がある。当日は衝撃を受けて信じられないと思ったけれども、わりとすぐ、数日の間に色々なものを読んで、自分の中で整理したり、理解したりできるようになっていた」

色々な記事や文章を読むことによって、自分とは背景の異なる人がどうしてブレグジットに票を入れたのか、その要因の一部が分かってきた。それでも直後の状態はお葬式に似ていると、パラニサミさんは言う。最悪の出来事が起きてしまったことを、もはや否定できなくなった瞬間。そしてパラニサミさんの悲嘆は今も続いている。

「現実を受け入れる段階までたどり着いたのかどうか確信がない」と明かし、「こんな展開はいやだ」と話す。

家族や友人、地域の仲間など、自分にとって大切な人々との交流が慰めになっている。その一方で、英国を出ることも考えているという。

「英国と米国が本当に心配だ。これまで生きてきたどんな時期よりも本気で心配している」とラビさんは話す。「スウェーデンかどこか、もっと進歩的だと感じられる場所、世界はこうあるべきという自分の考えにもっと近い場所への引っ越しも、検討するかもしれない」

同じように「残留」に投票したルーク・ジョーンズさんも、離脱派勝利の結果に「憤慨し、混乱」したと言う。その苦痛を和らげる薬として、仕事と旅行が効果的だということが分かったそうだ。

「ブレグジットの結果を乗り越えるため、仕事で支援している若い人たちと話をした」とジョーンズさんは話す。

「大多数の若者は事態の展開にあぜんとしていることが分かった。そこに将来への希望をいくらか見出すことができた」

「夏の間に少し旅行もした。自分は政治オタクだけど、旅先でブレグジットが一度も話に上らなかったのは嬉しかった。僕が英国人だと分かると、外国の人たちが相変わらず大歓迎してくれたのも嬉しかった。英国ブランドに傷がついたんじゃないかと心配していたけど、大丈夫だった!」

アリス・ファーモー=ヘスケスさんは国民投票の後、「コモン・グラウンド」という団体の責任者になった。「破壊的ブレグジット」的な事態を避けるために活動する団体だ。今回のことで得たひとつの教訓として、意見が違う相手との対話がいかに重要かを学んだとアリスさんは話す。

国民投票前に殺害された、ジョー・コックス下院議員の影響を受けているという。故コックス議員は常々、住民同士の結びつきは、住民の分断よりもはるかに大きいと力説していた。

「ソーシャルメディアは、同じような意見ばかりが響き渡る『エコー・チェンバー(共鳴室)』的な性質が強い。国民投票の後でこれがはっきり分かった。そして人と直接会話する機会、自分と違う意見を持つ相手と会話する機会はどんどん減っている」と話す。

「それが教訓となって、私はこの活動に駆り立てられた。自分と意見が違う人と話すのは難しいこともある。口調がたちまち険悪になって、怒鳴ったり叫んだりしてしまうかもしれない。だから何よりもまず自己鍛錬の場になっている」

ソーシャルメディアには現在、離脱派と残留派が話し合える複数のフォーラムがあるという。このほかにも、愛読紙以外の新聞も幅広く読むよう心掛けている。自分の愛読紙には「私と同じ意見がそのまま反映されている」ばかりだからだ。

「嫌なことも書いてあるけど、自分の意見だって必ずしも人に共感してもらえるわけではないと気づく。解決策がどんどん思いつくなんていう境地には自分も達していないけれども、聞いてみたい話の幅を広げるにはとても有効な方法だ。より良いコミュニケーションに近づくための、第一歩になる」

心理学者のジェームズ・オリバー氏はメディアのエコー・チェンバーについて、また別の点を指摘する。同氏によれば、私たちは政治的意見の大半をメディアから吸収するが、その意見が間違っている可能性を認める心構えが必要だ。実際の状態は、自分が思うよりはるかにましかもしれないので。

「大衆の一員としての私たちのレベルは未熟で、本当は何が起きているのか、さっぱり分かっていない。ひょっとしたら、トランプが大統領になった方がずっと良かったりするかもしれないのだから」

「トランプ氏は間違いなく、かなりいかれてるし、気まぐれで人格的にゆがんでいる。しかし過去の偉大なリーダーも、多くは相当にいかれていた。むしろ逆に、少しもいかれていなかったリーダーがどれだけいたのか、教えてもらいたいくらいだ」

「トランプ氏がいかれてるという、そのこと自体には何の意味もない。確実に分かることは、それくらいだ。それ以上のことは、私たちは本当に何もわかっていないんだ。顧問はだれになるのか、政策がどうなるのか、歴史がどうなるのか、私たちには分からない」

ストレス・ホルモン「コルチゾール」が増えてしまっている人にオリバー氏はこう助言する。自分にどうこうできる問題ではないのだと、認識しようと。

「コルチゾールのレベルが下がることをしよう。ヨガでもよし、シリーズ物のビデオを一気に見るのもよし、セックスするもよし。自分がリラックスできることなら何でもいい」

「ただし、本当の解決につながるのは、しっかりとした理解だ。何が正しいか自分は分かってると思い込んでしまったのは、大間違いだったと。それを、心の底から理解する必要がある」


サバイバルのコツ

・色々な文章を読み、ほかの人がどうして自分と違う側に投票したのか理解する努力をしよう

・自分が友人や家族をどれだけ愛しているか、その気持ちに集中しよう

・仕事や勉強に一生懸命取り組んで、旅行に出かけよう

・「エコー・チェンバー」から抜け出して、意見の違う人たちと対話しよう

・自分自身の考えを疑ってみよう。自分が誰より一番分かっている……のではないかもしれないと、その可能性を受け入れよう

・自分にどうこうできる問題ではないことを認めよう

・なんでもいいからリラックスできることをしよう

(英語記事 US Election 2016: A survivor's guide to unexpected voting results

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37972198

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