2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2016年11月30日

 逆に言えば、これらの編集者やクリエイターが例えばギルドを作って適切な報酬の支払いや労働環境の整備を求めたり、労働組合を組成するというような「社会的な知恵」を持たないことを良しとして、文字通り低賃金長時間労働を行わせたうえで成果を出せる人間だけ正社員に留め置く前提で、売れる作品という上澄みだけをうまくすくい上げ、独善的な企業が利益を独り占めさせていると批判されても仕方がない。

 国家戦略としてコンテンツ輸出を強化するのであれば、これらの劣悪な環境に置かれているクリエイターに対し、政府はフリーランスになってしまってもせめて健康診断は受けられるように、または、弱い立場につけこまれて長時間労働を強いられることのないように、制度的な枠組みを作ることが求められている。

 なぜならば、クールジャパン構想の下でいま使われている資金のほとんどが、民間でもできるようなことをわざわざ半官半民のファンドを作り、不必要な規模の仕事をやった挙げ句、投資回収もおぼつかないような投資を繰り返してしまっている。「日本コンテンツの海外進出支援」の名目で大手企業のヒモ付き案件が中心にならざるを得ないからだ。

 もちろん、悪意があって失敗しているわけではないだろうが、海外にどのような需要があるかは民間が一番よく知っている。また、もしも海外で成功の目があるコンテンツを抱えているならば、わざわざ官民ファンドに頼らずとも民間は自前の資金で投資を行って、知的財産や収入を管理するだろう。結局、高収益を生みようもないイベントか、大手が自前でやるにはリスクの大きい二線級のコンテンツくらいしか手掛けさせてもらえない。

 政府は産業の持続性やその産業に携わる人々の幸せや健康、所得、権利を守るための仕組みを用意することを念頭に置くべきなのである。例えば、アメリカのようなフリーランスのための労働組合の機能拡充や、フランス流の社会保障制度の検討も必要だろう。

クールジャパン機構が投資した「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」
(写真・ORE HUIYING/GETTYIMAGES)

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