2024年4月19日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年4月20日

●新しいことを始めるにはお金がかかりそうですね。

――幸い、予算をとるのは得意な方ですね。そういった実務を面倒がる研究者もいるでしょうが、お金がかかる研究したいなら金は何とかして集めないといけない.

石黒浩教授と自身のコピーロボ「ジェミノイド」
(c)ATR知能ロボティクス研究所

●先生に悩みなんてものはないんでしょうか?

――というか、悩むことが楽しいんですよ。悩まないのはゴキブリですから。研究ではやりたいことがありすぎて、どれをやるかは多少悩みますけど。一つの研究をはじめるのにアイディアは極端に言えば100ぐらいだします。1つやったってまだ99も残っているし、1つやればまたふくらむ。そこで困ることはない。そこはもしかしたら他の人とは違うかもしれません。私が一番得意なのはやりたいことをみつけることかもしれないですね。

●若いときはアイディアを出すのに苦労したそうですが、どこかで方法論を会得したんでしょうか?

――そうですね。具体的には、とにかく考え続けること。そして、研究と生活を分けないことです。若いときは、研究と遊び、研究と生活を分けてしまっていたんでしょうね。物事の本質がまだ見えてなくて、教科書の範囲だけで何かしようとしていたんだと思います。

 そういえば、24〜25歳の頃、アイディアが出なかったら死のうと思っていました。アイディアが出なくてドクターをとれなかったら死のうと決めたんです。そう思ってときどき体がぶるぶる震えていた。人間、死ぬ間際って震えが止まらなくなるんですよ。そうやってずっと考えているうちに、余計な価値観や固定観念は気にならなくなってきた。本当に死ぬ覚悟でやればハードルを越えられるのかもしれないです。

●体が震えるほど考える・・・。常人には考え及ばない領域です。しかし、昔は先生にも固定観念があったんですね。

――すでにある研究にと同じように研究をしないといけないとか、コンピュータの研究はこういうもんだとか、とらわれていましたよ。一年半ぐらいはなにもできない時期があった。画像をどう認識するのか、自分がやろうとしていることになんの意味があるのか。考え続けてはいてもなにもできず、ただ電車に座っていました。発見をしようともがいたけど、基本的なことを考えればいいってことがわかってなかったんですね。

 これは恩師に教えられたことです。ロボットをどう作ろう、と思っても発見はないけど、人間とは何かを考えれば、新しいロボットは作れる。たとえば、歩くロボットを作ろうとする。それはホンダも作っている。じゃあ、もっと速く歩かせるにはどうしたらいいか、と考えても行き詰まる。でもより広い視点で、人間が行動するとはそもそもどういうことかを考えれば、まだやられていないことが見えてくるんです。

●ゆらぎの研究もそのように考えて出てきたんですか?

――ゆらぎは、阪大全学でやろうという動きがあって、声がかかったというのが発端。すぐにこれだと思いましたよ。すぐにゆらぎの先生のところに行った。普通、教授が他の教授の弟子になるみたいなことは、プライドがあってしないでしょうけど、私は別に問題なかった。プライドと研究、どっちが大事なんだと。研究と命はどっちが重いのか、という話。自分の命より軽い研究をやっている奴なんて信用できないでしょ。そんな人が歴史に名を残すような研究はできません。というと、他の先生には「きつすぎる」と言われますけどね。


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