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2016年12月1日

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ドナルド・トランプ次期米大統領は、世界各地で様々な事業を展開している。このため、大統領として下す決断が、自らの事業に影響し、利害相反につながる可能性があると指摘されている。トランプ氏のどのような事業が、大統領としての職務にどう抵触する可能性があるかを並べてみた。

トランプ氏の多数の不動産投資やブランドなど、様々な事業を統括するのが、トランプ・オーガナイゼーション有限責任会社だ。

現役の実業家が大統領になれば、自分の事業の利益になるように米国の政策や政府省庁を動かすことができてしまう。

米国では公務員は、利益の相反につながる副業などが禁止されているが、この決まりは大統領には該当しない。そのためこれまでの大統領は従来、利益誘導など汚職の疑いがかからないように、個人としての投資は「ブラインド・トラスト」(白紙委任信託、第三者が完全な裁量権を持ち運用する)に預けていた。

トランプ氏はこれまで、成人した子供3人がトランプ・オーガナイゼーションを運営していくと発言してきたが、子供たちはいずれも政権移行チームの一員で、父親と外国要人との会談に同席している。

利益相反について指摘や批判が高まるなか、トランプ氏は11月29日、子供たちと共に記者会見を12月15日に開き、「自分の偉大なビジネスからそっくり身を引く」ことについて説明するとツイートした。「大統領職の方がはるかに大事な仕事だからだ!」とも連続ツイートしている。

トランプ氏は、「事業から完全に自分を切り離すための法律文書を策定中」だとツイートしたが、具体的にどういうことかはまだ説明していない。

公職者の倫理に詳しい専門家たちは、利益相反が疑われる事態が一切ないよう、トランプ氏は所有する事業の権利をすべて清算すべきだと促している。

トランプ・オーガナイゼーションは非上場のため、資産内容の全容および利益相反の可能性の全容は、明らかにされていない。

大統領としての職務と事業の利益が衝突しかねないことは、選挙中から指摘されてきたが、当選して政権移行作業が進むなか、問題は喫緊の様相を帯びている。

米国内外で、トランプ次期大統領にとって利益相反となり得ることが判明している事業は、次の通り――。


<米国内での利益相反>

○ウォール街40番地

トランプ・オーガナイゼーションは、ニューヨーク・マンハッタンのこのオフィスビル内のオフィス・リース権を所有しており、ビルに払われる賃料が同社の利益となる。

米ブルームバーグ・ニュースによると、ウォール街40番地にあるビルの現在あるいは過去のテナントに対して、連邦捜査当局が5件の事件捜査を行っている。ほとんどは証券詐欺だという。

捜査を主導しているのは、証券取引委員会(SEC)。トランプ氏は大統領就任後ただちに、SECの新委員長を任命する。


○ダコタ・アクセス・パイプライン

ノースダコタ州とイリノイ州を結ぶ石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設をめぐり、地元先住民のスー族と支援者たちが、数カ月前から抗議している。スー族が住むスタンディング・ロック居留区の水源の下を、パイプラインが通過するからだ。

パイプライン敷設の事業主は「エネルギー・トランスファーズ・パートナーズ」。この会社の親会社に対して、トランプ氏は50万ドルから100万ドル相当の投資をしている。

トランプ氏のホープ・ヒックス広報担当は、「エネルギー・トランスファーズ・パートナーズ」の株は売却したと説明。しかしトランプ氏が株を持つ別の会社、「フィリップス66」は、パイプライン事業の株25%を保有している。

トランプ氏は今年5月以降、資産を公開していない。このため「フィリップス66」の株を売却したかどうかは不明だ。

米軍と内務省は、パイプライン建設について住民と引き続き協議する必要があるとして、建設継続について判断を保留している。

最終的に判断するのは、トランプ氏が任命する内務長官となる。


○ドイツ銀行

トランプ氏の不動産開発事業に、最も多額の資金を提供してきたのがドイツ銀行だ。

ドイツ銀行は現在、高リスクの住宅ローン担保証券(MBS)を販売して消費者をミスリードしたと米司法省の捜査対象になっている。

来年1月20日の大統領就任式までにドイツ銀行が司法省と和解しなければ、トランプ政権の司法省が和解交渉の当事者となる。


○米政府一般調達局(GSA)

トランプ・オーガナイゼーションがワシントンに開いたトランプ・インターナショナル・ホテルは、古い郵便局庁舎を連邦政府の一般調達局(GSA)から賃借して使用している。同社は2013年、1億8000万ドルでGSAから賃借した。

オバマ政権の元調達担当者と政府調達の専門家は米紙ワシントン・ポストに寄稿し、これではトランプ氏は「大家とテナント」の両方に同時になることと同じだと指摘。賃借関係を第三者に移転すべきだと呼びかけている。

トランプ氏の60年の賃借権については、再交渉が必要になるとみられる。そして賃料交渉の責任者は究極的には、トランプ氏が任命するGSA長官に判断を仰ぐことになる。

加えて賃借の取り決めでは、公選者も含むいかなる連邦政府職員も、政府との契約で利益を得てはならないと定められている。

一方で、トランプ・インターナショナル・ホテルはすでに、ワシントン滞在中の好ましい宿泊先として外国使節に提案されることが多い。このため、トランプ政権に気に入られようとトランプ・インターナショナル・ホテルの高額な部屋を予約する外交政府が増えるのではないかと、懸念されている。


○全米労働関係委員会

全米労働関係委員会(NLRB)は11月3日、トランプ氏が共同所有するトランプ・インターナショナル・ホテル・ラスベガスは、ホテル従業員労組との交渉を拒否したことで、労働法に違反したと判断を示した。

同ホテルは判断を控訴した。しかし現在、このホテルについてはほかに8件の労使紛争がNLRBに提出されている。

NLRBの委員は5人。トランプ氏は就任後、そのうち空席の2人を任命する。このためNLRBは、大統領自身の事業に影響する係争について判断を示さなくてはならないという、前例のない事態に直面している。


○シークレットサービスの飛行機代

大統領選中、トランプ氏の航空会社TAG航空は、トランプ氏警護のためにトランプ氏の自家用機に搭乗したシークレットサービスに、使用料を請求していた。

民間航空機を使う場合にシークレットサービスが使用料を払うのは通常のことで、選挙戦中は、連邦選挙委員会が選挙資金報告を通じて、請求額を追跡していた。

トランプ氏は今後、大統領としては大統領専用機エアフォース・ワンをはじめとする政府専用機を使うことになる。しかし、トランプ家の家族やマイク・ペンス次期副大統領の家族にシークレットサービスの警護が付き、TAG航空の飛行機に乗ることになれば、シークレットサービスはTAG航空に、究極的にはトランプ氏に、フライト代を払うことになる。

こうした費用はシークレットサービスの通常の予算の一部で、公開される可能性はあまりない。


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<海外資産>

トランプ氏がこれまでに公開した資産情報によると、少なくとも20カ国で投資、もしくは企業を所有している。国内事業と異なり、もし海外事業で利益をあげ続けた場合、トランプ氏は連邦憲法の禁止条項に抵触する恐れがある。

合衆国憲法の第1章第9条第8項のいわゆる「報酬条項」は、「合衆国から報酬または信任を受けて官職にある者」は、「連邦議会の同意なしに」、外国からいかなる「贈与、支払い、利益」も得てはならないと定めている。

税控除のように常態的な利益も、トランプ氏が大統領になればただちにこの条項に抵触する。

ブッシュ政権の倫理担当法律顧問だったリチャード・ペインター氏は、トランプ氏が海外事業を持ち続ければ、就任「初日から」憲法に違反することになると警告している。

海外政府からの報酬・利益供与のほかに、トランプ・オーガナイゼーションが事業展開する外国に関するトランプ氏の外交政策判断は、常に問題視される可能性がある。自らの政策が、自らの海外事業にとって有利ならば、なおさらだ。

米国の外交政策と交錯し得るトランプ氏の海外事業の一部は、次の通り――。


○アルゼンチン

アルゼンチンの放送局によると、トランプ氏は当選後にアルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領と電話会談した際、ブエノスアイレス市内の高層オフィスビル建設を応援してほしいと要請したという。

マクリ大統領の報道担当もトランプ陣営も、この報道を否定している。

しかし電話会談の数日後、ブエノスアイレスの施工主が建設計画の続行を発表した。問題のビルの建設は、数年にわたり中断していた。


○ブラジル

リオデジャネイロのウォーターフロントに、ライセンス契約によって「トランプ」の名前がついた、未完成の不動産物件がある。

この物件開発にブラジルの2つの小規模な年金基金が大々的に投資しており、連邦政府が贈賄疑惑で捜査している。


○中国

中国銀行は中国有数の商業銀行で、中国政府が株の過半数を保有する。そして中国銀行は、トランプ氏が部分的に所有するニューヨーク市内のビルに対して9億5000万ドルを貸し付けている。

トランプ氏はかつて、中国政府は為替操作国だと批判した。

同様に中国政府が大半を保有する中国工商銀行は、ニューヨークのトランプ・タワーのテナントで、トランプ・オーガナイゼーションに賃料を払っている。


○インド

ムンバイとプネにある建物について、トランプ氏はライセンス契約を結んでいる。

契約相手のひとつが、ロダ・グループだ。創設者のマンガル・ロダ氏は、与党・インド人民党の副総裁で、インド国会議員。

トランプ氏が当選して間もなく、インドで取り引きをしている実業家たちがトランプ・タワーを訪問。次期大統領は政権移行のための打ち合わせから時間を割いて、「米印関係」を実業家たちと協議した。


○フィリピン

フィリピン政府の対米通商使節に新しく選ばれたホセ・アントニオ氏は、トランプ・タワー・マニラを建てている不動産開発業者だ。

トランプ氏が関わる多くのブランド事業と同様、トランプ氏はこのビルの所有者ではないが、名前の使用権を有償で提供しており、定期的に支払いを受ける。

過去にはトランプ氏の家族がPRビデオを通じて、このトランプ・タワー・マニラの開発を宣伝してきた。

アントニオ氏は大統領選後に訪米し、トランプ氏と個別会談したと報じられている


○サウジアラビア

選挙期間中にトランプ氏は、サウジアラビア国内に計画中の不動産開発事業に関連する8社を新たに設立した。

トランプ氏は今年初めにフォックス・ニュースに対して、「サウジアラビアは守ってあげたいと思う、そういうことになるだろう。しかしそれにはサウジアラビアはこちらを、経済的に支援してくれなくては」と話している。


○トルコ

トランプ氏は2008年、イスタンブールの商業地区に住居・オフィス用のタワービル2棟を建てようとしていた複合企業ドアン・ホールディングスと、ライセンス契約を結んだ。

しかしタワー・ビルが2012年に営業を開始して以来、ドアン・ホールディングスとエルドアン大統領との関係は悪化。ドアン財閥は、エルドアン大統領に批判的な新聞も所有している。

米誌ニューズウィークは、エルドアン大統領とドアン財閥の関係悪化に伴い、トランプ大統領と同盟国トルコとの関係は、実業家トランプ氏の利害関係と相反することになると指摘する。

過激派勢力のいわゆる「イスラム国」(IS)との戦いや、シリア内戦において、トルコの役割は極めて重要なだけに、この利害のずれがもたらすリスクはかなり大きいものとなる。


○英国のゴルフ場

トランプ氏は英スコットランドに2カ所、ゴルフ場を所有している。最近になって、イギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏に、大型風力発電所に反対するよう要請している。理由は、英国にとって良くないからでも、米国のエネルギー政策と異なるからでもなく、風力発電所計画は自分のゴルフ場の価値を下げるからだった。

トランプ氏とファラージ氏の会談に同席した、欧州連合離脱運動のアンディ・ウィグモア氏は、米紙ニューヨーク・タイムズと英紙エクスプレスに、「風力発電所そのものが嫌いだと言うのではなく、景観をダメにするのが嫌なだけだと言っていた」と明らかにした。

トランプ氏のゴルフ場の状況は、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)交渉や、スコットランド独立の住民投票がまた行われれば、その結果にも左右される。

(英語記事 Donald Trump: A list of potential conflicts of interest

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38165836

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