2024年4月20日(土)

対談

2016年12月9日

矢野:私たちは2006年から1万人を超える人たちの日常行動を100万日以上にわたり、ミリ秒単位の解像度で、データとして大量に収集しています。腕や胸に加速度センサーを着けて動きを記録していくことで、活動的な時間帯とそうでない時間帯、ほかの人との交流の多い時間帯と少ない時間帯がわかるのですが、これで人間の「ハピネス」、つまり幸福感が測れることもわかってきました。

 ハピネスについてはまず、オーソドックスにアンケートで調べました。10の組織、468名の方々に、20問の質問をしたんです。「今週、幸せだった日は何日くらいですか」や、「悲しかった日、楽しかった日、孤独だった日を0から3の4段階で答えてください」といった設問です。もっともハッピーな人は3 ×20=60点になります。これを組織の中で平均すると、その組織が幸せなのか、そうでないかが数値化されるというわけです。

 その数値が、胸に付けた加速度センサーが示すある値と0.94という高い相関を示すことがわかったんです。こんなに相関が高ければ、アンケートは不要になってしまう。胸に加速度センサーをつけてもらえれば、組織が幸せかどうかわかるんです。

 わかったことは、幸せかどうかは、集団の行動に多様性があるかどうかなんですね。人間の行動は、止まっているか動いているかです。組織の自由度や行動の多様性はそこに現れてきます。

 人は、机に座っている時でも、無意識に動いたり止まったりしています。ちょっと動いてそのまま動かなかったり、20分間動きっぱなしだったりとさまざまですが、平均を取れば身体運度を開始した人は10分程度は動き続けます。そのなかでもハピネスの高い人たちは、短い動きと長い動きがミックスされた多様な行動を取る傾向があります。一方でハピネスの低い集団は動きが均質で、動きの長さが10分くらいで均質化してしまうといった傾向があるんです。

飯田:かつての工場のライン工のような動き方ですね。

矢野:そうなんです。こういった、これまでは定量化できなかったことを定量化してみると、人間の働き方は私たちが素朴に考えていたものとは大きく違いました。ハピネスの高い人ほど生産性も高い。

 これは店舗でも、コールセンターでも、ソフトウエアやシステムの開発業務など幅広い組織に当てはまります。

 さらに踏み込んで言えば、幸せとは個人の中にあるものではなく、きわめて集団的な現象だと考えています。多くの人が生活する中で素朴に実感していることだと思いますが、個人の幸せを突き詰めて考え始めると忘れてしまいがちですよね。


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