易経に学ぶリーダーシップ

2016年12月17日

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古藤友子 (ことう・ともこ)

易占研究会代表

東京大学大学院人文科学研究科博士課程中国哲学専攻単位取得退学。2016年3月末まで、国際基督教大学教授。専攻は中国哲学、東アジア思想史。著書に、『五行大義全釈』上・下巻(明治書院・共著)、『周易本義』(明徳出版社・共著)、『はじめての易占』(青土社)などがある。なお主催している占術研究会は京都に本部を置き、現在、京都大学大学院生や京都大学人文科学研究所教授等を中心に『断易断例卜筮元亀』の読書会を続けており、近く出版の予定である。

 「飛龍、天に在り。大人を見るに利(よろ)し」(乾為天卦・九五爻辞)        

 

                    乾為天

一番めでたい「乾為天」(けんいてん)

 易経には64の卦がありますが、この中で一番めでたい卦といえば「乾為天」でしょう。
第1回目で、易は陽(━)と陰(➖➖)の6つの組み合わせで成り立っていること、そしてその一つひとつを爻(こう)と呼ぶとお話しました。

 今回は、その爻それぞれに意味があることをお話しします。冒頭に挙げた形(象)を見てください。6つの爻がすべて陽(━)で成り立っています。これを乾為天といいます。易占いでは、爻から占いの意味を探ることがありますが、今回の乾為天は、この爻が大変大きな意味をもっている点で興味深い卦です。

 乾は健(すこやか)でもあり、明るい陽の性質をもっています。乾為天の卦全体を説明することば(卦辞)には、「元(おお)いに亨(とお)る。貞(ただ)しきに利(よろ)し」とあります。これは、「望みはおおいに通る。正しい態度を持続するとよろしい」という意味です。卦辞は占いの内容を表現しているもので、中国古代の周王朝を開いた文王(ぶんおう)という実在の人物の言葉です。

 「元亨利貞」(げんこうりてい)は、国語辞典にも出ている言葉ですから、ご存知の方も多いでしょう。物事の循環を説く言葉です。もしご存知なければ、一度辞典を調べてみてください。

「飛龍、天に在り。大人を見るに利し」

 乾為天の特徴は、龍が出てくるところにあります。一番下の(━)の爻は「潜龍勿用」という言葉で説明されています(この言葉を爻辞といいます)。「せんりゅうもちうるなかれ」と読みます。潜龍とは、田の中に潜んでいる龍です。会社でいえば新入社員でしょうか。まだまだ何もできませんから、先輩について仕事の様子をうかがっています。

 下から二番目の━の爻辞は「見龍在田。利見大人」とされ、「けんりゅうでんにあり。たいじんをみるによろし」と読みます。田の下から地上にあらわれた龍。やっと会社の仕事がわかってきましたが、まだまだ一人前とはいきません。

 下から四番目の━は池の淵で飛ぼうか飛ぶまいか迷っている龍です。爻辞は「或躍在淵。无咎」。「あるいはおどりてふちにあり。とがなし」です。そろそろ一人で飛び立ってもよい時期に入っています。つまり、実力もついてきた中間管理職です。

 五番目の━の爻辞は「飛龍在天。利見大人。」で、「ひりゅうてんにあり。たいじんをみるによろし」と読みます。天子の象徴である、天を飛ぶ龍を意味しています。昔は新入社員だった者も社長になり、絶好調の時期を迎えています。この五番目の爻は、最も権力のある者のいる場所とされています。

 では一番上、六番目の━は何でしょう。天より高く飛ぶことになるのでしょうか。いいえ、これは、「亢龍有悔」。「こうりゅうくいあり」と読み、降りるに降りられない、そして動けば必ず後悔するという、上に昇りすぎた龍の姿を示しています。

 ちなみに、龍が登場しない三番目の爻には君子が登場しています。爻辞は次のようなものです。「君子終日乾乾。夕惕若。厲无咎」。「くんししゅうじつけんけん。ゆうべまでてきじゃくたれば、あやうけれどもとがなし」と読みます。「惕若」は憂い畏れることですから、一日中剛健で、夕方まで過ちがないか注意深く反省していれば、危険な地位にあっても災いはないという意味です。

 このように、乾為天では君子のように剛健で、憂い畏れて行動しているならば、きっと一国一城の主となれるといっています。しかし、上に昇りすぎたリーダーが、そこから退こうとしても、降りるに降りられない状況になることもあわせて示されています。人生の最後に痛いしっぺ返しが待っているということも含めてのめでたい卦、ということになります。

 リーダーを目指す皆さんには重々おわかりのことでしょうが、人間引き際が肝心ということも肝に銘じておく必要がありそうです。

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