WEDGE REPORT

2016年12月16日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

財政赤字が増大

 一方、2%程度の物価上昇目標をなかなか達成できなかった日銀にとっては、「トランプ相場」は金利を押し上げることになり、結果的には好都合かもしれない。異次元の金融緩和策を堅持してきた黒田東彦総裁に対して、物価目標を任期中に達成できないのではないかといった批判が今年半ば以降高まっていただけに、日銀にとっては潮目が変わったことで安堵しているのではないだろうか。また、FRB(米連邦準備制度理事会)が14日に利上げを決めたことで、さらに金利が上昇する可能性がある。その際に、日銀が手をこまねいて超低金利政策を続けていると、日米の金利差が拡大して、結果的に一層のドル高円安を招くことになり、マーケットが混乱する恐れがある。日銀はトランプ政権の誕生により、長年続けてきた金融政策の方向転換を迫られるかもしれない。金利に変化の兆しが出てくる中で、年明け以降に黒田総裁が金融政策をどのように変更するのかどうかが注目される。

 一方、日本政府にとって長期金利の上昇は国債費の急増に直結する。超低金利で国債の利払い費は少なくて済んでいたが、長期金利が急騰すれば利払い費は雪だるま式に膨れ上がり、財政赤字の増加になる。2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化の達成を目指すとしている政府の財政健全化目標は、またしても遠のく。また、国債を大量に保有している金融機関にとって、長期金利の急上昇は国債価格の急落になり、大きな国債評価損を出すことになり、金融機関の収益にも打撃を与える。

不確定要素が多い「トランポノミックス」

 現時点では、トランプ次期政権の具体的な経済政策は明らかになっていない。分かっているのは法人税減税、公共インフラの整備、TPP(環太平洋経済協定)からの離脱、海外への工場進出を抑制し国内に回帰させるくらいだ。減税の財源は明示されておらず、赤字国債で賄うのではないかとみられている。となると米国の財政赤字は増大し、長期金利がさらに上昇してインフレの兆しが出てくるかもしれない。これを帳消しにするだけの経済活動の活発化による雇用の拡大、消費の増加による米国経済の好循環が生まれればトランプ政権の経済政策「トランポノミックス」は評価されるだろうが、今の時点では不確定要素が多い。

 トランプ氏がツイッターでつぶやいてアドバルーンを上げておいて、その反応を見ながら政策を決めようとするなど、政策に一貫性がなく読み切れない部分が多々ある。記者会見を開いて政策をきちんと説明するのかと思っていると、その記者会見も急きょ延期になるなど政策決定に不安定さが付きまとう。

 一方、日本の経済の現状を見ると、GDP(国内総生産)の6割を占める個人消費の伸びが鈍く、節約志向から勢いが感じられない。そうした中で、投機的なマネーによってもたらされている株価上昇が長続きするのは難しいという見方もある。株価の変動に一喜一憂する必要はないが、株価上昇によって来年の日本経済がバラ色にみえるのは時期尚早だろう。

  
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