イノベーションの風を読む

2016年12月24日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

研究開発(R&D)

 リサーチ担当のシェルトン・ユエン(副社長)は、部門のミッションとして「挑戦的な新しいセンサーや機能やアプリケーションを開発する」「人々が求めるものをつくる」「市場機会を逃さないように共同して商品化する」の3つをあげた。世界で1600人以上の従業員のうちの2/3が研究開発に従事しているという。ユエンは、最新のFitbit Charge2の新しい機能を紹介した。

 フィットビットの上位機種には、フォトプレチスモグラフィ(光電式容積脈波記録法)によって心拍数を計測する機能がある。心臓の鼓動で流れる血液の量が増えると、より多くの緑色の光が吸収されることを利用するもので、緑色LED(発光)とフォトダイオード(受光)の組み合わせによって手首を流れる血液の量の変化を計測する。これはApple Watchなどにも採用されている技術だ。

ユエン Fitbit Charge2が計測した心拍数から「カーディオ(有酸素運動)フィットネススコア」というものを計算します。これはあなたのVO2マックスの推定値で、ランニング、サイクリング、水泳など、持久力が必要な運動のパフォーマンスを予測するのに役立つフィットネスの指標です。VO2マックスとは、最高負荷での運動時にあなたの体がどれほど有効に酸素を使用するかを計測するものです。VO2マックスが高いほど、フィットネスレベルは高くなります。

 通常、VO2マックスの測定には鼻と口をマスクで覆い、疲れ果てるまでトレッドミル上を走って吸気と呼気の量を測定する必要がある。 Fitbit Charge2のソリューションは少ない労力で、その推定値を求めることができるという。フィットビットは、それをもとに年齢や性別からユーザーの運動レベルを評価し、スコアを改善するためのポイントをアドバイスする。

VO2マックスの測定のデモ

人類が抱える共通の問題

 第3四半期の決算の数値や第4四半期の見通しがアナリストの予測を下回ったために、フィットビットやその市場自体の成長を危ぶむ声も出始めているが、それはいささか早計のように思う。

 製品事業やその市場の縮小や消滅は、その製品が解決しようとする問題か、解決策(製品)が原因で起こる。問題が解消されてしまったり、あるいは初めから存在しなければ(一時的なブームが起こったとしても)製品事業やその市場は縮小し消滅する。問題が存在する場合でも、その解決策(製品)が正しくない場合も同じことになる。より良い別の解決策が出現した場合も過去の製品は消滅するが、それによって市場が拡大することがある。健康(肥満)の問題は、永遠に続く人類共通の問題だ。

フィットビットが解決しようとする問題は健康(肥満)だ。その問題を解決するために、人々に動くことを促す必要がある。1859年にフランスで世界初のダイエット本が出版されて以来、肥満は人類が抱える共通の問題で、その基本的な解決方法は動くことだとされている。しかし動くことは面倒だ。フィットビットは、どれだけ動いたかを計測して知らせることで、人々が動き運動するモチベーションを保つことを手助けする。(昨年6月のコラム)

 企業の成長戦略で「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」の3つは、(事業の)拡大化戦略と呼ばれている。フィットビットの売り上げの72%が米国市場におけるものであることを見れば、次に取り組むべきは海外の「市場開拓」であることは間違いない。

 前述したように、フィットビットが強みとするプラットフォームをグローバルに展開することには、単なるハードウェアビジネスに比べると大きな困難がともなう。APAC担当事業部長のスティーブ・モーリー(副社長)は「アジアでのビジネスには大きなリスクとチャンスがあると認識している。グローバル展開に取り組みながら、それぞれの市場で学んだことによって洗練したソリューションを提供する」と強い意欲を話した。

成長戦略のマトリックス(アンゾフ)

  フィットビットは12月7日に、同じウェアラブルデバイスのメーカーであるペブル(Pebble)を買収(特定の資産を取得)すると発表した。「特定の資産」にはハードウェア製品は含まれておらず、ソフトウェアおよびファームウェア開発に関連する主要人員および知的財産が買収の対象になっている。プレスリリースによるとフィットビットは、特にiOSやAndroidやWindows Phoneの様々なスマートフォンや、そのバージョンの違いをサポートするペブルの技術に注目しているようだ。フィットビットのデバイスは、フィットネストラッカーとしての機能以外のスマートフォンとの連携、例えば着信の通知などの機能は競合に比べると貧弱だ。そのあたりを強化して製品のイノベーションをはかることが、今回の買収の大きな狙いであることも間違いないだろう。

  
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