2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月5日

 上記論説は、ロシアのアジア回帰政策は欧米に対するロシアの立場を強化するもので、アジア関与は表面的なものにすぎないと論じていますが、これは、欧米中心に情勢を見すぎている嫌いがあります。

 世界の情勢を決める要因としてのアジアの重要性が増していることは否めません。プーチンのアジア回帰を欧米への反発の副産物に過ぎないと片づけてしまうのには賛成しかねます。ロシアは常に欧州とアジアの間に位置し、歴史的には、ある時は欧化論者が主導し、ある時はスラブ主義者やユーラシア主義者が主導してきた国です。プーチンはユーラシア主義者で、彼の発想の中には、欧州もアジアも重視すべきであるとの考え方があるように思われます。

 ただ、プーチンがアジア重視を言っても、それに実質を与えるように精力的に動いているかというと、そうでもありません。今はプーチンの関心はシリアやウクライナにあるようです。ロシア極東の人口は減り続け、今や620万人に過ぎません。ロシアの対アジア貿易はアジア貿易全体の1%に過ぎないと上記論説は指摘していますが、ロシア経済の実力から、その状況も簡単には変わらないでしょう。要するにロシアのアジア回帰には物質的・経済的な裏付けが小さいとの問題があります。

 北方領土を日本に返還し、対日関係を抜本的に改善すれば状況は変わり得ますが、プーチンのリマでの発言や国後、択捉への対艦ミサイル配備発表など、対日関係を抜本的に改善する措置をとる気はないようです。

韓国以下になったロシアのGDP

 中ロ関係については、ロシアは中国のジュニア・パートナーとなることを屈辱的と考えるかもしれないと言われますが、ロシアはそういう感情を克服し、中国と協力するのが既定路線になっているようです。ロシア人は力関係をよく見て、自らをそれに適応させるのには長けています。
プーチンは、資源依存経済を利権擁護のために改革しえませんでした。その結果、ロシアのGDPはIMF統計では韓国以下になってしまいました。

 トランプ次期米大統領の政策、態度が今後の米ロ関係にとり重要です。トランプはプーチンを尊敬する、米ロ関係を見直すと言っています。そのためにウクライナやシリアでどうするのでしょうか。ロシアに主導権を渡すことは考えられません。トランプは、シェール開発の規制緩和を進めるとしているので、ロシアの石油・ガス価格を低下させ、ロシア経済は改善されないでしょう。

 北方領土をめぐる日ロ間交渉の今後については、プーチンのリマ発言、北方領土への対艦ミサイル配備、プーチンの国内政治基盤などに鑑み、大きな成果は期待できないように思います。一部たりとも固有の領土を放棄しないのはもちろん、1993年の東京宣言から後退しないことが望まれます。

  
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